『応天の門』第1巻
灰原薬 新潮社 \580+税
新暦2月16日は、旧暦でいうと1月25日にあたる。時は901年(延喜元年)の1月25日、この日に菅公こと菅原道真が太宰府に左遷された。
彼が命じられた大宰権帥(だざいごんのそち)という役職は、官位は高いものの実質流罪のようなもの。この2年後、道真は太宰府で没することになる。
しかし道真の死後、疫病は流行するわ日照りは続くわ、あげくのはてに清涼殿に雷は落ちるわ。すっかり怖くなった朝廷は、北野天満宮と太宰府天満宮を建てて、彼の祟りを鎮めようとする。
時を経て、祟り神としてのイメージは薄れ、生前学問に長けていた道真にあやかって、天神様は学問の神さまとしてあがめられるようになった。
天満宮のお守りや鉛筆を持っている受験生も多いでしょう。私もそうでした。
ちょうど今、受験シーズンですね。みんな、がんばってね。
ともあれ、菅原道真というのは、死後もなお神としてあがめられてしまうようなすごい人だったのだ。常人と違うというか。
そんな道真を主人公にしたマンガが『応天の門』。学問の天才たる道真が、まだ18歳の頃の話だ。
毒舌で容赦なく、暇さえあれば書庫に引きこもり、「知」に対する熱意と好奇心は人並み外れた青年(外見的には少年に近い)菅原道真。
道真はひょんなことから、都で起こった事件に首をつっこむことになるのだが、その事件を調べているのは、歌人で色男と名高い在原業平だ。
そして道真と業平、異色のバディが、数々の事件を解決していくことになるのである。
とにかくこのマンガ、ストーリーが文句なしにおもしろい。
また墨絵を思わせる流麗なタッチで、平安の都や宮廷、美姫から病んだ男まで見事に描き出していく画力もすごい。
「平安クライムサスペンス」と銘打たれているように、謎解きの設定も凝っている。
道真と業平が出会う第1話では、花の汁をきっかけとしてホームズばりの推理をする道真が見られ、この後で道真がどのように事件を解決していくのか、読者はわくわくしてしまうのだ。
しかし、事件を解決するのは道真ひとりではない。道真の知識を実際の行動に活かしてうまく対処していくのは、社会性のある38歳・在原業平だ。
業平と知り合い、事件に深く関わるにつれ、道真は思う。「なるほど。私はまだ何も知らぬ」と。
このバディのバランスが絶妙で、それにこの先はふたりの過去が絡む話になっていくから、本当に目が離せない。
また藤原高子や昭姫(しょうき)、白梅たち女性陣も、本当に魅力的で素敵なキャラクターだ。
とくに高子は業平だけでなく、女も惚れるようなただ者ではない姫。憧れる……。
2月中旬の今頃は、梅の開花前線が日本を折しも北上中。
飛梅伝説で有名な道真のマンガを読むには、実にタイムリーではないだろうか。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」