『サバイビー』第1巻
つの丸 集英社 \390+税
3が「ミツ」、8が「ハチ」で、本日は「ミツバチの日」だ(制定は全日本はちみつ協同組合と日本養蜂はちみつ協会)。
蜜の採取や作物の受粉のために世界中で飼育が行われるミツバチは、フィクションの題材としても使われてきた。アニメなら『みつばちマーヤの冒険』や『昆虫物語 みなしごハッチ』などが有名だが、マンガ界にも名作がある。
そのタイトルは『サバイビー』。1999年、週刊少年ジャンプ連載で、つの丸が『みどりのマキバオー』の次に送り出した長編である。
水害で身寄りを亡くしたミツバチの孤児バズーは、さらに第2の家族となった友人たちまで、獰猛なスズメバチの襲撃で皆殺しにされる。
敵の標的は、あるミツバチから託された謎の塊。それは滅亡の危機に瀕するミツバチ復活の鍵を握る女王の卵だった。
卵から生まれた幼い女王を守るバズーは、スズメバチや天敵の猛攻をしのぎつつ、どこかに生き残っているはずのミツバチ群を探し求める……。
題材が題材だけに、弱肉強食のリアリズムにおおわれ、シビアさに背筋が震えてくる作品だ。
だが同時に、厳しい世界観で読者をへこませるだけの作品ではない。自分より数倍大きなクモや鳥、スズメバチに何度ズタボロにされても、仲間を何匹無惨に殺されても抵抗心を失わず突進し続けるバズーには、世界の理不尽に怒る生命の熱がある。
劇中、バズーは眼前で鳥に襲われる者を助けるかどうかの瀬戸際で、こう言われる。
「よせバズー見るな こんな光景はどこでもいつでもある事だ ここじゃないどこか遠いところで起こっていると思え」
人間の世界にもある、大人の理屈である。
だがバズーは怒り、飛び出す。全身全霊をかけて敵にしがみつく。ナメられたままではすまさない。
単行本全3巻と短いが、そのぶん本作には少年マンガのヒロイズムの原液が、いっさい水増しなく濃縮されている。
ちょうど『進撃の巨人』の有名なフレーズが『サバイビー』の精神性と端的に共通しているので、これを引いて本稿のシメとしよう。
「どれだけ世界が残酷でも関係無い 戦え!! 戦え!! 戦え!!」
つまりは、そういうこと。
ミツバチの物語だからって、甘くはないのだ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7