『バスケの女神さま』第1巻
内々けやき 講談社 \429+税
(2015年3月9日発売)
「本当になにもできない主人公」って、意外といないもの。
秘めた能力があるとか、じつはかわいいとか、なんかあるでしょ。
ところがこのマンガのヒロインの新海深雪は、本当になにもできない。
東京から鳥取に逃げるように転校。1巻時点では、びっくりするほどどんくさく、「せめてこれだけはできる」というのがまったくない。
鳥取で初めて出会った迫水翔という美しい女の子。バスケが非常にうまく、仲良くなった新海に、一緒にやろうと持ちかける。
ところが新海は、パスもドリブルもできない。走ることもままならない。メンタルも弱くて、すぐ逃げ出しかける。
ゼロからのスタートを始めるとなれば、ここから先はプラスしかない。
なんの自信もない日々を送っていた彼女が、迫水に教えられてバスケのゴールにはじめてシュートを決めた時に、カチッと自分のなかで何かがはまる。これがスタート。
メンツのなかでも最下位中の最下位だが、少しずつ何かをつかむ。それがなんであっても、ゼロからのスタートなら、すべてが成長だよね。
迫水は鳥取なまりが激しい(ほかのキャラは東京弁)。読んでいてもわからないセリフがある。
言葉がすんなり入ってこない感覚は、新海がバスケを飲み込みきれていない初期の感覚によく似ている。
迫水の会話のニュアンスが、次第になんとなくわかってくる。バスケのコツがなんとなく感覚でつかめてくるのに、とてもよく似ている。
1巻はまだまだ、ドベのまんまの新海。最後の最後に初めて自分の意志を選択する。
今まで逃げ続けていた新海。ここからは、何もかも吸収して、迫水とお互いを助けあう存在に変わっていく。
コミカルに動く彼女の成長を読むと、心が疲れている時にいい塩梅の刺激になる。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」