『サイダーと泣き虫。』
缶乃 一迅社 \852+税
(2015年3月18日発売)
女の子たちの不器用な関係。百合といえば百合。だけど、思春期の女の子たちが陥りがちな関係性、という表現もできる。
だからこそリアルに胸に迫るし、自分のなかにある(あった)想いをとり出して、じっと眺めたくなる……。
女子ならだれもが体験した、あの不安定な季節のもろさと愛おしさを、缶乃が鮮やかに描き出した作品集。
女の子同士の関係って、恋だけど恋だけじゃないんだな。この1冊には、そう考えさせられる作品ばかりがつまっている。
特に最初の、「花丸ハッピーエンド」「畢竟デッドエンド」と名づけられた2編は、それをはっきりと表している。
幼なじみの夏子と美冬。努力家で成績のいい美冬の後をついてまわっていた夏子。
その位置関係が、中1になって逆転する。軽音部に入った夏子はどんどん上達し、人気も出て、友達も増えた。
美冬につきまとうこともなく、むしろスルーして薄笑いを浮かべる余裕さえ出てきた夏子に、美冬は焦り始めて――。
なぜ夏子がこういうことを始めたか? それは読んで確認していただくとして。
この作品集には、ある種のパワーゲームの要素があちこちに垣間見える。
でも「好きならしょうがない」「ですよねー」というオブラートの向こうでは、パワーゲームさえも恋を深める要素なのだ。
私たちをドキドキさせて、作品のなかの女の子たちに共感させるもの。
最初の2編だけでなく、ほかのキャラたちもみんなかわいいですよ。オカルト部の面々や、園芸部の子たち。
私個人としては、「シンデレラ」の2人が大好き。この先が気になるなあ。
しかし、よくまあこんな手練手管を思いつくなと、それぞれの作品のエピソードを見るにつけ思う。
缶乃の百合的視力のよさには、感動すら覚えるのです。
それにしても表紙! 美冬の泣き顔どアップ。やっぱり、缶乃の描く表情はすばらしい。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」