『空想少女』第1巻
さと 秋田書店 \600+税
(2015年4月8日発売)
少女たちをめぐる、なんだかちょっとずれている話がつまった、オムニバス作品集。
好きな男子をとりあう恋のデスマッチにエントリーされてしまう少女。
マンガを読むとそのマンガのタッチになってしまう女の子たち。
成長期を経るとなんらかの動物的要素を持つ世界の少女。
ウキウキ心が浮かれると、本当に浮いてしまう女の子の集団。
「少女」という言葉をカギに描くギャグ作品だ。『りびんぐでっど!』でもその手腕を発揮したように、会話はハイテンション、おバカな女の子たちの迷走とツッコミで物語が進む。
たとえば「自分にPOPを貼る世界」を描いた物語がある。
「書道五段」とか「パートナー募集」とか、長所をアピールするために身体にPOPを作ってベタベタ貼るのが流行らしい。
アホの子とクールな女の子2人がPOPの話をしている。アホの子は必死に自分のPOPを考える。でも自分の長所がみつからない。
ふと、「美々ちゃん(クールな方)のPOPならいっぱい思いつくんだけどなー」と言い出したところで話がカチリとはまる。
クールな子は、アホの子にとある一枚だけPOPを作って貼る。それは、誰にも書けない、友人だけの特別な言葉だ。
ギャグマンガタッチでおバカな行動を積み重ねて描くことうちに、人間の悩みを表現するのにたけているのが、さと作品の魅力。
思春期ならではのおバカなテンションのなかに、悩みとも言い切れないような、歯がゆい心のムズムズが見えてくる。
特に人間関係。思春期に抱えるストレスの微細な部分を、笑いのなかに盛りこんでいる。
成長による身体の変化、人に本心を知られる恐怖、平凡で心が傷ついたことがないことへの不安。深刻ではない話ほど、読んでいてどこか心にひっかかる部分があるはずだ。
ところで、唯一タイトルに反して少女ではなく、お母さんなのに魔法少女になってしまう話は、妙な説得力があっておもしろい。
たしかに家庭を背負っているほうが少女より強いに決まってるわな。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」