『荒野のグルメ』第1巻
土山しげる×久住昌之 日本文芸社 \1,200+税
(2015年4月9日発売)
B級グルメマンガ界の黄金タッグが『野武士のグルメ』に続いて贈る最新作。
『野武士のグルメ』では、長年勤めた会社を定年退職したばかりの還暦男・香住武のひとりメシ、ひとり飲みが描かれるが、『荒野のグルメ』は現役バリバリ48歳の中間管理職・東森良介が主人公。あちこちの大衆食堂や町中華を食べ歩くスタイルではなく、疲れたサラリーマンにとってオアシスのごとき小料理屋が舞台だ。
居酒屋チェーンの喧騒は疲れが増すだけ、かといって気どったバーでは腹がふくれない。うまい肴とうまい酒がリーズナブルに楽しめ、落ちついた風情の美人女将が切り盛りする小料理屋は、まさに癒しの場である。
女将が常連客の要望をできるだけとり入れてくれる点もキモ。ビールの小ビンが欲しいといえば、次回までに用意してくれるし、料理の好みも覚えておいてくれる。
そんな心の底からホッとできる場所で東森がくつろぐ様が、これでもかと描写される。
本作は久住がシナリオやネームを担当している形ではなく、久住のエッセイ『ひとり家飲み通い呑み』を原案としている。
だからして主人公の東森は土山のオリジナルキャラクター。小料理屋を荒野の水場に例えて、西部劇よろしくイーストウッド(東森)とネーミングするあたりが最高すぎる。
おもしろいのは女将の表情が、しっかり描かれていない点。美人女将と前述したが、それはあくまで鼻や口から受ける印象からである。
これは「読者それぞれが理想の女将像を投影してほしい」というメッセージなのだろう(ちなみに筆者の妄想女将は、田中美佐子さんです)。
上司から難題をつきつけられても、部下がヘマをして謝るハメになっても、女将の作る心のこもった料理に舌つづみを打てば、明日への気力がわいてくる。
そんな東森の姿を眺めているうちに「俺(私)もこんなオアシスが欲し~い!」と地団駄を踏むこと請けあいの、心憎い逸品ナリ。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。出身地の立川を舞台にした映画『ズタボロ』(橋本一監督/5月9日公開)の劇場用プログラムに参加します。
「ドキュメント毎日くん」