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5月1日はオペラ『フィガロの結婚』の初演日 『ソルフェージュ』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/05/01


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『ソルフェージュ』
よしながふみ 芳文社 \562+税


1786年5月1日。ウィーン・ブルク劇場で、作曲者モーツァルトの手によってオペラ『フィガロの結婚』が初演された。
この『フィガロの結婚』はコメディで、伯爵家の従者フィガロと女中スザンナの結婚式当日に起こったドタバタを、美しい音楽で描き出した作品だ。

愛欲まみれのドロドロ、人間関係のややこしいしがらみ、想定外のハプニング。
たった1日の間に次から次へと事件が起こるが、モーツァルトはその顛末を、明るく華麗に、そしていきいきと描き出す。あっけらかん、と言ってもいいほどに鮮やかに。

それはそのまま、よしながふみの作風にも通じるかもしれない。
『ソルフェージュ』にはいくつもの重い設定があり、ドラマがある。
だがこの作者の手にかかると、それらの重さはしつこさを感じさせず、さらりとしていて、それでいて情感や余韻を感じさせるストーリー運びになるのだ。

主人公は小学校の音楽教師、久我山。彼はゲイで奔放な性格であり、男性関係も出入りが激しい。
だが合唱指導の才能は高く、その分野では名の知れた教師だ。
そんな久我山のもとに、卒業生である田中吾妻が、音楽学校受験のために通うことになる。
ヤンキーの田中だが、音楽にハーモニーの魅力を見出した彼は、合唱指導をしてくれた久我山を頼り、久我山もまたそれに応える。
複雑な家庭事情にある田中を久我山は支え、田中は無事に音楽高校への入学をはたしたが、やがて彼らの関係は教師と生徒の関係を越えていき――。

『フィガロの結婚』のなかにある有名なアリア『もう飛ぶまいぞこの蝶々』が、この作品のシリーズ5本の中で4本目に使用されている。
田中はイタリアで、タイトル・ロールであるフィガロを演じられるほどに成長し、それをクラシック雑誌を通して知る久我山。
久我山のベッドには別の男性がいるが、その彼がじつは……と、ここはぜひ作品を読んでいただくとして。

『ソルフェージュ』では、作品内で10年以上の月日が流れる。無論久我山も田中も数々の経験を経て、当初とはずいぶん変化する。
ここでシリーズの最初から出ていた、津守という女性キャラクターに着目してみよう。
彼女は最後まで活躍し、始めは小学生だったがすっかり社会人となって、主人公2人にとって大きな働きをしてくれる。
そういう脇キャラの動かし方の巧みさや、エピソードの選び方、テンポや落書きに至るまで、よしながふみは、普通とはちょっと違う漫画家だ。
BLマンガなので、そういうシーンはもちろんある。しかしたとえBLを敬遠していたとしても、ぜひ一度読んでいただきたい作品だ。



<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」

単行本情報

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