『小学館文庫 機動警察パトレイバー』第5巻
ゆうきまさみ 小学館 \581+税
ロボット技術応用の歩行式作業機械「レイバー」が一般化、犯罪にまで利用されるようになった近未来。
警視庁警備部内に設置された通称「特車2課」第2小隊の活躍によってレイバー犯罪は減少したものの、今度はその便利なツールで車両事故の処理や逃げ出した大型家畜の回収といった雑務に追われることに……。
そんななか、アメリカ合衆国大統領の警護任務をおおせつかった特車2課。
日本政府に対して高圧的な外交政策をとる大統領をレイバーテロから護衛する第2小隊の面々、なかでもチーム一の熱血漢であるフォワード(=パトレイバーのパイロット)・太田功巡査は「なんでそんなヤツのわがままにつきあわなければならんのだ!」とイライラ。
ここで第2小隊バックアップ(=指揮担当)の篠原遊馬がたとえに出したのが「津田三蔵」。
1891(明治24)年5月11日、訪日中のロシア帝国皇太子を、警備にあたっていた警察官が滋賀県滋賀郡大津町(現在の大津市)で突然斬りつけた、いわゆる「大津事件」の“主犯”である。
遊馬は、ことあらば警護対象のVIPのほうに危害を加えかねない太田巡査を津田にたとえたわけだ。
「きょうのマンガ」の「5月27日」になぜ大津事件が出るのかというと、この事件の最重要ポイントがじつは“津田三蔵に下された判決”だったから。
当時の列強ロシア帝国の皇太子に刃を向けた津田を、日本政府は“日本の”皇族に危害を加えた者に適用される「大逆罪」をもって死刑にすべしとした。しかしながら時の大審院院長(現在の最高裁判所のようなものの長官)・児島惟謙(これかた)は「刑法に外国皇族に関する規定はない」としてこれを断固拒否。
かくして同年の5月27日、津田には無期懲役の判決が下った。
急速に近代化を進める明治政府において、裁判所=司法権が政府=行政権の干渉を完全に排除した、つまり「三権分立」という近代日本を象徴する権力構造を確立させたという点において5月27日は日本史上、大事な日なのだ。
ちなみにこのシーンが登場するエピソード「第3小隊の崩壊」が収録された小学館文庫の第5巻は、劇場版アニメ第3作『WXIII 機動警察パトレイバー』のモチーフである通称「廃棄物13号編」の完結編が収録されている。
こちらも本作を語るうえで欠かせないエピソードなので、上述の太田巡査の顛末がどうなったかも含めて、どうかご一読を!
<文・富士見大>
編集プロダクション・Studio E★O(スタジオ・イオ)代表。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。