『カレーの王女さま』第1巻
仏さんじょ 芳文社 \819+税
2001年から2007年にかけて神奈川県の横浜にあった「横濱カレーミュージアム」を覚えておいでだろうか。
展示でカレーの歴史を勉強できたうえ、「どんりゅう庵」「船場カリー」など多数のカレー店を入れて、来館者の頭とおなかを満たすテーマパークだった。
その横濱カレーミュージアムが制定したのが「横浜・カレー記念日」だ。
横浜港の開港が1859年6月2日(旧暦)で、このときカレーが日本に伝わったという考えのもと、横浜とカレーを紐づけて設けられた。
国民食のひとつとなって久しいカレーは、昔からグルメを描くフィクションにもちょくちょく登場している。
マンガでいえば、麻薬スパイスで中毒が起こる伝説の「ブラックカレー」を描いた『包丁人味平』や、カレーがメイン題材の『華麗なる食卓』などが有名。
また、インド本来のスパイス料理と日本式カレーの違いを指摘した『美味しんぼ』「カレー勝負」編も当時は示唆深い内容だった。
ただ、上記はいずれも料理勝負の要素が強い。カレーを作る場面も食べる場面もある種の緊張感をともなっている。
そこで今回はあえて、肩の力を抜いてカレーに親しめるマンガをおすすめしてみたい。
タイトルは『カレーの王女さま』。カレー屋の看板娘・篠宮つかさと、南アジアの小国から留学してきたカレー至上主義の王女・ヴィクトリアのカレー探訪の日々を描いたコメディ4コマである。
ヴィッキー王女は野望を抱えている。それは自国民の食べものを日本式カレー一色に染め上げること。そのため、カレーについて見聞を深めようと来日したのだ。
姫は中学校でつかさそのほかを引きこみ“カレー部”を設立。横須賀の海軍ビーフカレー、金沢カレー、はては北海道のオホーツク流氷カレー(2巻)と、王道から変わり種まで全国のカレーを現地で食べまわる部活を謳歌していく。
劇中でとびだすカレー部員のあいさつ「乙カレー!」が必見。ポーズと勢いにつられて思わず真似したくなるインパクトがある。
王冠をつけたドレス姿の金髪お姫さまが山盛りのカレーライスにかぶりつく落差がまずおもしろいが、さらに、彼女がまるで酒が切れた人間のように“カレーが切れる”と凶暴化する設定が笑いを誘う。
「今よりカレー税の徴収を行う!! ただちに手持ちのカレーを差し出すがよい!!」「逆らえばハヤシの海に沈めるぞ!!」と迷台詞でおどしてくるシーンが愉快に強烈だ。
カレーのように親しみやすく、カレーのように刺激的な『カレーの王女さま』。
記念日にあわせて、カレーを食べながら読んでみるのはいかがでしょうか。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7