『うせもの宿』第2巻
穂積 小学館 \429+税
(2015年5月13日発売)
少女のような女将さんがいる古い旅館。
そこでは忘れていた大切な「失せもの=探しもの」が必ず見つかるという――。
わずかデビュー数年にして、注目のヒットメーカーとなった穂積の好評連載作品。
これまでは宿の外部から訪れた「客」のエピソードが描かれてきたが、第2巻では仲居のお軽さんや料理長の桜井など、従業員のエピソードが綴られてゆく。
「うせもの宿の秘密」については第1巻の最後ですでに明らかにはされていたが、物語最大の謎である「女将さんの過去」については依然触れないまま、なにげない会話の端々にちょっとしたキーを忍ばせてくる絶妙な語り口は、うまい!というよりほかない。
パズルのピースを埋めるようにじわじわと、しかし確実に全貌をあらわにしつつある「うせもの宿」の物語、なんと次巻が最終巻になるという。
うせもの宿の案内人・マツウラと女将さんの関係や、すべてを知っている様子の番頭さんの正体など、気になる伏線がどう回収されていくのか、当然見とどけずにはいられないが、「もとの世界に戻れないのならば、辛い記憶を掘り起こしてまで失せ物を見つけても意味がない」と考え、「俺はもう何もかも思い出したくねぇんだ」と言っていた桜井が、はからずして辛い記憶を取り戻し「もううんざりなんだよ……っ」と苦しむシーンで、女将さんが自問するように放った「本当に忘れていいのか」という言葉は、今この世界に生きる私たちにもズシリと響くものがあるわけで。
たんなる「謎解き」では終わらず、人間の矛盾する想い、生の切なさやいとしさをそっと切り取る手つきは、じつに鮮やか。なのに、タッチはあくまでエンタテイメント。
――って、小説でたとえるなら、これはもう早くも話題作連発の直木賞作家の貫禄すらあり、ここはあえてハードルを上げて、かつて「このマンガがすごい!2013」オンナ編2位を獲得した『式の前日』をゆうに超える衝撃のラストを期待したい。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69