『マホロミ 時空建築幻視譚』第4巻
冬目景 小学館 \590+税
(2015年4月30日発売)
『マホロミ 時空建築幻視譚』の第1話が雑誌に掲載されたのは2010年のこと。
あれから5年、ついに単行本の最終巻が発売された。
物語は、建築科の大学生・土神東也と、謎めいた美女・深沢真百合の出会いから始まった。
古い建築物に触れることで、場所に宿った「記憶」を見ることができる2人は、東也の祖父を介した奇妙な縁に導かれて、少しずつ距離を近づけていく。
そんな男女を中心に、横浜の街で暮らす人々の人生模様が、近代建築の様々な魅力を交えながら、穏やかに切り取られてきた。
結局、なぜ東也と真百合に不思議な力が宿ったのか、はっきりとした理由は明かされない。
2人の関係をはじめ、登場人物たちの今後に関しても、明確な結論が出されるわけではない。
けれども、たしかに時は流れた。
登場人物たちはそれぞれの時間をしっかりと生き、ゆるやかに変化している。
それでいいのだ。
変わることを恐れるのも、性急にことを進めるのも、どちらもおかしいのではないか?
作品の内容で、発表形態で、作者は静かに、だが力強く、私たちに問いかけているような気がする。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei