『アイアンアッガイ』
曽野由大 KADOKAWA \580+税
(2015年5月26日発売)
ヒーロー調にアレンジされたアッガイ。
もう、それだけで100点なのだけれど、もしかしたらいわゆる「出落ち」のニオイを感じている人も少なからずいるんじゃないでしょうか? ところがこれ、けっしてそれだけじゃない青春物語でもあるんですよ!
主人公の熱山は、模型部に所属する高校生。しかし彼は、最近のガンプラの出来がよすぎるばかりに、逆にガンプラへの情熱を失いつつあった(モデラーの人なら、この冒頭だけで「わかる!」を連発しそうな展開)。
そんなある日、ふと手に取ったのが旧キットのアッガイ。80年代のガンプラブームを通過した人ならご存じかと思うが、今見るとなかなか“個性的”なこのキットを、「師匠」と呼ばれる部活仲間の激励もあって、最新のキットと並べても遜色のないものに仕上げる熱山。すごいぞ熱山!
しかし、ふと「それって、現行品のキットでよくね……?」というジレンマに陥ってしまい、今度は自らがアッガイそのものになる等身大アッガイ(作中でも指摘されるとおり、実際は等身大じゃなくてアッガイが設定上では全高17メートルなので、だいたい1/10スケールですが)を目指すことに。
そして、その過程で今までは経験したことがなかった裁縫のことを聞きに、お知恵拝借と純粋な気持ちで手芸部を訪問するのだが、そこでやりとりした筧さんのことが好きになってしまったからさぁたいへん。
そこから先は、本当に見てらんないぐらい痛々しいことをやらかしつつ、どうやら筧さんが『アイアンダー』なるヒーローもので“腐ってる”らしいという情報を得て、「等身大アッガイをイマドキな感じのヒーローに寄せて完成させれば彼女に振り向いてもらえるのでは?」と、明らかに間違った方向へと突っ走る。
いいなぁ熱山。バカだけど。
というわけで、一発ネタかと思いきや、ガンプラに端を発したむやみに熱い青春ラブストーリーとしてもたいへんオススメだったりします。
途中からさらに思いもよらない方向へと話が転がってゴッグと戦ったりもしますが、そのてん末は読んでからのお楽しみということで。
そして、これを読んだあとは、とりあえず旧キット改造とまではいかなくても、HGアッガイのひとつでも作って悦に入るとなおよいんじゃないでしょうか。
だれにでも作りやすいアッガイを手にしてから読み返せば、より作品への理解度も高まることでしょう。
ところで、じつはアッガイって、最初の『機動戦士ガンダム』では第30話に1回出ただけなんですよね。劇場版に至っては、一瞬だけ登場して、ガンダムと交戦すらしないで61式戦車に撃破される始末。
それがこんなコミックが登場するまで愛されるようになるとは……アッガイおそるべし!
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。