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7月2日は初めて単独飛行の気球が世界一周飛行を達成した日 『首吊り気球』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/07/02


KubitsuriKikyu_s

『潤二の恐怖夜話2 首吊り気球』
伊藤潤二 朝日ソノラマ \388+税


米国テネシー州出身の大富豪で冒険家だった、故ジェームズ・スティーヴン・フォセット(1944~2007)をご存じだろうか?
ある時は船に乗り、ある時は飛行機に乗り、休みも補給も入れず地球をぐるりひとまわりする挑戦でワールドレコードを数多く樹立した人物だ。いわば世界一周の鬼である。

本日7月2日は、フォセットの記録のなかで航空関係の大きな業績のひとつが達成された日。
2002年のこの日、彼の乗る熱気球が一度も着陸することなく世界一周をなしとげたのだ。
厳密には「無着陸世界一周」そのものは1999年に他国のチームにより達成されている。彼の場合は「単独」つまりひとり乗りの気球で最長・最高度・最速を叩きだした世界記録だ。
オーストラリアで飛び立ち、再びオーストラリアに着陸するまでの滞空時間はじつに320時間あまり。
当時58歳だったフォセット、いったいどれほどの精神力と体力を費やしたことだろうか。

さて、気球で気力体力をごっそりもっていかれる……というのにかけて、今回ご紹介するのはこちら。
ホラーマンガ界の大御所・伊藤潤二の短編『首吊り気球』である。『潤二の恐怖夜話2 首吊り気球』は絶版になっているが、現在は『伊藤潤二傑作集8 うめく排水管』で読める。

部屋に閉じこもったひとりの少女が窓の外から語りかけてくる声におびえつつ回想する形で物語は幕開ける。
あるアイドルがマンションの外壁で首吊り死体となって発見される事件から、ことは始まった。
死んだアイドルそっくりの顔をした巨大な首がぷかぷか空に浮かんでいるのが目撃され、さては幽霊のたぐいかと親しい者を恐怖におののかせる。

が、そこから事態は急展開。
空飛ぶ首からは1本のロープが垂れ下がっている。先が輪になったそれに人をひっかけ、首を吊らせて殺すのだ。中身はガスでできているらしく、大きな顔を突けば急速にしぼんでいく。幽霊というにはあまりに即物的な、気球めいた謎の怪物。これが首吊り気球である。 しかもヤツらは1匹や2匹ではない。数千? 数万? へたすれば総人口と同じ数? 日本中に首吊り気球の群れが大量発生。腕で首もとを防御しても、傘で頭上をガードしても無理やり吊るし上げられ、人々は自分と同じ顔をした気球に次々と殺されてしまう。

空飛ぶ生首オブザデッドな地獄絵図のなか、だれもうかつに外へ出られない。都市機能は徐々に麻痺していく。
そして家族を失い、食料も尽き果て追いつめられた主人公の耳に聞こえてくる、よく知った声。つい油断して窓をあけた彼女の前には……。

と、わずかなページ数の間にあれよあれよとえらい状況になる不条理スペクタクルの傑作だ。
気球を乗りこなして世界一周した冒険家のロマンあふれる記念日に、気球に襲われて身動きとれない理不尽あふれるホラーをたしなんでみるなんてのも、オツかもしれない。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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