『ボーイ★スカート』
鳥野しの 祥伝社 \680+税
(2015年6月8日発売)
いつもの朝が、いつもより少し騒がしい。それというのも、2年D組の男子生徒のひとりが、突然、スカートをはいて登校してきたからだ。しかもその男子生徒は、女子から地味に人気のあった桃井太一くん。
密かに想っていた女子生徒たちはもちろん、一学年上の桃井くんの彼女・水(みず)先輩も動揺を隠しきれない。
そんななかで、クラスメイトの白井さんだけは、桃井くんのスカート姿になんだかワクワクとした感覚を覚えて……。
鳥野しのの新作『ボーイ★スカート』は、まさにスカートをはくことを選んだ男の子のお話。ただ、いわゆる男の娘の物語とはまるで別物だ。
タイトルはもちろん、青少年の育成を目的とした“ボーイスカウト”に掛かっているが、本作も男の子がまっすぐ健やかに育っていこうとする様をあたたかな視点で描いた作品でもある。
おもしろいのは、桃井くんが突然スカートをはくことを選んだ理由。
女装でもセクシャリティーの問題でもない。
そこはぜひ読んでみて確かめてほしいが、うん、その答えもまっすぐで清々しい。そして、そんな彼を受けてのまわりの反応と態度こそ、本作の物語となっている。
息子が理解できずに苦しむ桃井くんのお父さんに、変に解釈を与えて袋小路に入ってしまうクラスメイトたち。
そのなかにあって、「わたしは 今朝 スカートのすそ ひるがえして歩いてくる桃井くんを見て すごくワクワクした!!」と口にするのが白井さんだ。
ただ、白井さんはこうも続ける。
「でもそれって わたし別に桃井とつきあってるわけじゃなくて しょせん他人だからワクワクできたんだと思う」。
陳腐な物語だったら、水先輩とわかれた桃井くんは、よき理解者でもある白井さんとくっついて……という展開にもなるかもしれない。
しかし著者は、そうは描かない。それどころか、白井さんに上記のようにいわせてしまう。
この距離感の開き──逆を言えば、他者を他者と認めたうえで成り立つ距離感の近さを描いているところに、著者の人間的な優しさ、本作の世界観の優しさもある。
心地いい海外の少年小説のような一作。鳥野しのはすでにして名手だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。