『手紙物語』
鳥野しの 祥伝社 \680+税
(2014月11月15日発売)
メール(野暮なようだが、電子メールのこと)全盛な今だからこそ、よけいにこの“一通の手紙”をめぐる物語たちは、読んだ後どれも心の奥がギュッとなる。
『オハナホロホロ』の鳥野しのが贈る手紙がテーマの短編集。
手紙という共通点はあるものの、ファンタジー、謎解き、SFとジャンルも、そして、日本の昭和、現代、16世紀のイギリス、超未来の宇宙など、物語の舞台も様々。どんな時代、どんな設定でもしっかりと、どこかもの悲しく、でもほのぼのとあたたかい鳥野ワールドが展開されていて読みごたえがある。そして、作品に登場するどの子たちも、芯がしっかりしていてまっすぐ静かな目で微笑みながら立っていそうな清潔な感じがする。
なかでも、昭和十一年の日本を舞台にした「日雀(ひがら)」の盲目の少年・瀧彦とお人好しのお尋ね者・銀平との再会のシーンは、“父上からの手紙”を宝物に成長した瀧彦の「おかえりなさい」で、お互いが相手を思いやるあたたかさが、読み手の自分にもじんわりと伝わってくる。
「苺とアネモネ」のラストですっかりつづることを忘れているのに、受け取った手紙を見て涙するいちこにも納得したけれど、手紙は心情をも伝えるものなんだなぁと思える、しみじみといい話。