じゃっかん毛色の違う「シュレディンガーの恋人」の、ミス・オースチンにエミリーがグイグイ迫る謎解きのシーンは、まるでチェスや将棋の息詰る試合のようで、“対決”といいたいくらい。そして、エミリーのかっこよさに応える粋なミス・オースチンの見せる「お見事!!」なやさしく鮮やかなラストまで、コンパクトなページ数とは思えないテンポのよさとストーリーの密度のバランスはすごい!
一転して、「星の林に月の舟」で主人公・アミが最後のひとりになっても開催され続けるクラーク・エコール第389期同窓会に出席する理由は、失われた故郷の友だちとの約束を果たすためで……。
宇宙の果てで展開する物語だが、その心根の切なさ、友だちのあたたかさをスンナリ受け止められる上質のSFになっている(それにしても、出港する宇宙船にドレスの裾を翻して飛び乗るアミとそれを受け止める友だちの見開きページの簡素にして軽妙なコミカルさは高野文子ばりの熟練さだと思う)。
そして、ラストの光に包まれるアミの背はやっぱり真っすぐ前を向いてピンと伸びている。
「白き使者」のサー・トマス・ワイアットがレディ・エリザベスにしたためた「お誕生日おめでとう」のメッセージといい、5編にはそれぞれ手紙の持つ”相手への想い”が詰まっていて、ふと、自分も誰かに手紙を書いてみようかと思うくらい、読みごたえのある作品集だった。
『手紙物語』著者の鳥野しの先生から、コメントをいただきました!
<文・小山まゆ子>
フリーランスの編集・ライター。絶賛発売中の『このマンガがすごい!2015』にも参加させていただきました。あと12月25日発売の『宝島AGES』の「80年代特集」にもチョロっと参加させていただいております。