『小学館文庫 杖と翼』第1巻
木原敏江 小学館 \629+税
1789年7月14日。
世界史が好きな人なら、この日付だけでピンとくるだろう。
パリの民衆がバスティーユ監獄を襲撃、フランス革命が勃発した日である。
フランス革命を扱ったマンガはいろいろあるが、今回は『杖と翼』をご紹介したい。
ベテラン・木原敏江がわかりやすくていねいに、そしてユーモアとドラマをたっぷり交えてフランス革命を料理している。
物語の始まりは、サン=ジュストがレオンと呼ばれていた18歳の頃、1785年。
貴族が当たり前のように貧しい農民を食いものにしていた当時、すでにあちこちに暴動が起きつつあり、革命への動きが見え隠れしていた。
そんな時代のなか、眉目秀麗、天才と呼ばれるほどなんでもできるレオンは、その能力の高さゆえに退屈さを感じていた。
そこへ現れた、おてんば娘・アデル。
不思議な癒しの力を持つアデルと彼女の母親の影響で、レオンは初めて農民を救うことに生き甲斐を見いだす。
アデルたちはドイツに去ってしまったが、1789年の春、ランス大学にて、革命の立役者となったロベスピエールと、レオンことサン=ジュストが、初めて出会うことになる――。
物語は、ヒロインであるアデルを追いつつも、刻々と変化する当時のフランス情勢を丁寧に描き出していく。
ジャコバン派対ジロンド派の勢力争いの様子、またジャコバン三巨頭のマラー、ダントン、ロベスピエールのそれぞれの人となりやエピソードなど、おもしろく読めて知識もしっかり頭に入る。
アデルは創作人物だが、彼女が絡むことで革命の物語がいっそう魅力を増す。
第1巻では、特に彼女とシャルロット・コルデーとの関わりが興味深い。
アデルの能力が、シャルロットの行動に新たな“理由”をもたらすのだが、フィクションだとわかっていながらも、その説得力たるやみごとなものだと思う。
またリュウとファーブルという、タイプの違うイケメン2人も創作人物として加わり、この時代ならではの職業設定で彩りを添える。
このマンガに登場する実在人物は、とても史実に忠実に描かれている。
フランス革命に詳しい人もそうでない人も、間違いなく楽しめる1冊だ。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
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