『あれよ星屑』第3巻
山田参助 KADOKAWA \640+税
(2015年6月25日発売)
「月刊コミックビーム」での連載開始当初より、マンガ読みの間で話題を呼び、昨年度の各マンガランキングでは、まさかの上位ランイクインを記録した『あれよ星屑』。
第3巻では、舞台を再び戦後へと移し、ぬぐいがたい虚無感とアナーキーな熱気が渦巻く焼け跡で、がむしゃらに生き抜く人々の姿が描かれる。
助け合ってたくましく生きる浮浪児たち、命からがら日本へ戻った引揚者、日本への愛憎を抱えながらも必死で生き延びようとする朝鮮人たち、「神になりそこねた」元特攻兵……。
彼らの濃密で刹那でアッケラカンとした生命の輝きは、常に死を背負いながら生きているゆえか。
老若男女問わず、ほんのチョイ役でさえ、じつに生き生きと魅力的に描かれていて、その存在感に目を奪われる。
浮浪児たちが海のそばで暮らすことを夢見る見開きのシーンの、えもいわれぬ詩情。いかにも劇画的ないなたさのなかに、不思議な洗練と茶目っ気を感じさせる絵は、つげ義春かバロン吉元か……といった趣き。人生のはかなさをすくい取ったセリフもすばらしく、肉声のような生々しさで胸に迫ってくる。
かつて黒澤明や増村保造が描いたような世界を、たったひとりで、紙とペンだけで、これだけのリアルを生み出すとは、山田参助という人の底知れなさに(なんせ、彼は野坂昭如のような「体験者」ではないのだ!)、さらにはマンガというものの可能性に、あらためて感嘆せざるをえない。
『兵隊やくざ』の田村高廣とと勝新太郎を彷彿させる、川島と門松の凸凹名コンビっぶりも、さえまくり。
とくに子どもらと無邪気に戯れる門松の愛らしさといったら……! そのテの趣味はなくとも、思わずポッとしちゃいます。
3巻ラストでは、過去を捨てたはずの川島の前に、まさかの人物が現れて――。次巻ではより深い闇に迫ってゆく予感大。
いずれにしても、このままいけばマンガ史上に名を刻む名作となることは間違いない。
戦後70年の節目にして戦争法案に揺れる「今」だからこそ、未読の方もぜひ!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69