『つらつらわらじ』第1巻
オノ・ナツメ 講談社 \648+税
1635年8月3日(寛永12年6月21日)、江戸幕府が武家諸法度を改正。
この時から、諸大名の参勤交代の義務化が加わった。
参勤交代とはご存じのとおり、各藩の藩主を、定期的に江戸へと出仕させる法令のこと。
家臣もろもろ数百人レベルで行ききするわけで、その旅費から江戸滞在費まで大名の負担となるからたいへんだ。
藩の財政が圧迫されるうえに、正室と世継ぎは江戸に常駐の必要があり、まるで人質を取られるような形になったりと、かなり面倒だっただろう。
しかし人がたくさん携わり、なおかつそこに体面やらプライドやら家格やら様々なことが絡みあえば、ドラマも生まれるもの。
今日ご紹介する『つらつらわらじ』、サブタイトルは『備前熊田家参勤絵巻』。
熊田家の参勤交代の道中を、鮮やかに描きだした作品だ。
備前岡山の熊田家は、31万5千石となかなか大きな藩である。
その藩主、熊田治隆(くまだ・はるたか)。家臣によれば「殿は常に近習衆(きんじゅうしゅう)を煙に巻く隙を見計らっておるぞ」と言うほどの食わせもの。
そんな治隆が江戸へと向かう間には、彼を取り巻く家老や小姓たち、家臣のそれぞれの思惑が、映画の演出のようにちらちらと見え隠れする。
そして道中には松平定信の密偵も紛れこみ、じつに波乱含みの幕開けだ。
カメラは行列に加わっている家老・和泉(いずみ)にパンしたかと思うと、藩に残った残り五家老を映し出し、藩主治隆の秘密を取り沙汰する。
宿場の大阪商人たちのやり取り、密偵の行動……一つひとつが興味深く、この先どうなるのか目が離せない。
味わい深いシンプルな線、読めば読むほど深いネーム。
参勤交代は時間のかかるものだ。
なんでも、江戸から一番遠い薩摩藩では2カ月弱を要したらしい。
この『つらつらわらじ』も、じっくりと時間をかけて味わってこそのマンガ。
全5巻、夏休みにたっぷり味わってみるのはいかがだろうか。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」