『高橋留美子短編集 鏡が来た』
高橋留美子 小学館 ¥741+税
(2015年7月17日発売)
本作は、著者が「週刊少年サンデー」や「ビッグコミック」誌上に発表した読み切りで編まれた、短編集。古いものでは1999年発表の「with CAT」(「週刊少年サンデー」掲載)から、新しいものでは2014年発表の「鏡が来た」(「ビッグコミックスペリオール」掲載)までが収録されている。
表題作は、人間の邪心を浄化させる鏡を背負わされた高校生たちのサスペンス。
このほか、相手を呪い殺せる人形を手に入れた漫画家が主人公の「リベンジドール」や、なぜかある主婦にだけは異臭が感じられる花をめぐる『可愛い花』など、ミステリアスでオカルティックな作品が多いのが特徴だ。ただ、そのテイストと展開はそれぞれ。思わぬ着地と思わぬ読後感が待っていて、そうした意味でもSF作家とも言える著者の真髄を味わえる。
そう、高橋留美子はSF作家なのだ。
ここまでの少年誌連載の長編はどれもファンタジー要素のあるもので、デビュー長編『うる星やつら』はある見方をすれば、サイエンス・フィクションでもあり、スペース・ファンタジーでもある。
しかしSF的なのはそれだけではない。日常のドラマであっても作品における情報量の膨大さ、時間軸の多様さ、さらに人の心の不可思議さにまで触れて、そこに宇宙を感じさせる点がまた、SF的なのだ。
出色なのが、「昼は千の顔」と「with CAT」だ。
両作とも、それこそ往年の『うる星やつら』や『らんま1/2』のような、整然としたバタバタ感と疾走感で楽しませてくれる。
「with CAT」は幼なじみとの恋愛要素もあって、これぞ高橋留美子という一作だろう。
また注目は、巻末に収録された、あだち充とのコラボ作品「マイスイートサンデー」。
両作家が「少年サンデー」に作品を発表するまでの道のりと同誌の思い出、両者の出会いが描かれている。
帯にあるとおり、まさに「るーみっくワールドの決定版!」の一冊だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。