『トキワ来たれり!!』第1巻
松江名俊 小学館 \429+税
(2015年2月18日発売)
昨年、格闘マンガ『史上最強の弟子ケンイチ』を完結させた松江名俊が新作『トキワ来たれり!!』をひっさげカムバック! さっそく単行本の刊行も始まった。
この第1巻がおもしろいのは、「オムニバスの読切短編集であると同時に長編のプロローグでもある」という点だ。
まず第1編、忍者の末裔である少年が心の力を刃物として具現化する技によって人にあだなす妖魔を討ちとる「カナタ」。
続く第2編は、手品師の父親から源術(ソーサリー)と呼ばれる本物の魔法を教えこまれた少年が、針金を人型にして使役する術で悪の魔法使いと戦う「ハルカ」。
第3編、なんの特別な力もない少年トキワが趣味で書いていたブログ小説を超高性能アンドロイドに気にいられてつきまとわれ、やがて絆を育む「DEMIⅢ」。
忍術・魔法・超科学力……と、まったく異質な題材を描くこれら3作品が合流して『トキワ来たれり!!』という物語が動きだすのである。
さて、想像してみてほしい。雑誌でこの流れを追っていた際のサプライズを。
はじめ、この趣向についてふせられていたため、読者は「へー、3週連続でジャンル違いの読切を描くなんて松江名先生すごいなあ」とのんきに構えていたものだ。
それが、最後の「DEMIⅢ」のラストで全主要人物がお互いに事情を知らぬまま同じ高校の同じ教室に入って並ぶ見開きがどーんと描かれ、長編スタートが告知された。
そりゃもうワクワクせずにはいられない。
独立した話を複数やってから、ひとりひとりが主人公としての格をもつキャラたちを引きあわせるクロスオーバー感。あたかもマーベルのアメコミヒーロー集合映画『アベンジャーズ』シリーズのようでじつにうまい。
また、全体のまとめ役になる少年トキワくんの名前と、彼が暮らす安アパートの風情から、手塚治虫や藤子不二雄など名だたるマンガ家が入居した「トキワ荘」もモチーフに入っていそうだ(つまりトキワくんとDEMIⅢはのび太・ドラえもんのイメージ?)。
そうしてみると、『史上最強の弟子ケンイチ』で様々な分野の達人が集まる“梁山泊”を描いた松江名先生が、ふたたび別のかたちでそれを描いていくということかもしれない。
今後の展開に期待がふくらむ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7