『ベルサイユのばら』第12巻
池田理代子 集英社 ¥690+税
(2015年7月24日発売)
昨年、2014年に40余年の時を経て、新刊となる11巻が発売された、池田理代子『ベルサイユのばら』。
続く12巻も前作同様、主人公であるオスカルをめぐる人々の知られざる物語が描かれたエピソードで構成されている。
今回収録されているのは、前巻収録の「エピソード2」の主役で、幼い頃にオスカルに剣の勝負を挑み、その時からオスカルにほのかな恋心を寄せ続けてきた近衛連隊長づきの副官・ジュローデルの物語(「エピソード5」)。
そしてもう一編は、オスカルの母であるジョルジュットの若き日の恋愛劇(「エピソード6」)。フランス王妃マリー・アントワネットの母となる、マリア・テレジアも登場している。
出色なのが、「エピソード5」だ。オスカルが、アントワネットの愛人であるスウェーデンの貴公子・フェルゼンを心密かに想い続けているなか、フェルゼンの妹であるソフィアと出遭うことになるジュローデル。
ソフィアは兄・フェルゼンの燃える恋、ジュローデルは隊長・オスカルの秘めたる恋に気づいていて、いっぽうでジュローデルは想われ人であるフェルゼンを、ソフィアは想い人であるオスカルを複雑な思いで気に留めてもいる。
頭が切れ、感受性に富んでいて、どこか似た者同士でもあるジュローデルとソフィア。そんな2人は、ある夜、ある理由から唇を交わすことになる。
そして訪れる、フランス革命。オスカルとフェルゼンが採った選択が、2人の運命も変えていくことになる。
同エピソードは、本編の裏側の物語となっていて、本編のエピソードも挟まれていくだけに、懐かしさを感じる往年のファンも多いはずだ。
読めば、『ベルサイユのばら』の世界観と物語が一気に蘇ってくる。ただそこで思い出されるのは、作品それ自体だけじゃない。なぜあんなにも本作に魅了されたのか。その作品性の魅力も再確認できる。
史実と伝承と創作をうまく組み合わせたうえで、ドラマティックな物語を作り上げているのが『ベルサイユのばら』のすごさ。12巻収録のエピソードは、本編をいわば史実として、その史実の穴埋めと伝承の肉付けを行っているのだ。
『ベルサイユのばら』というフィクション自体が、すでに史実で伝承になっているという二重構造もおもしろいが、そこをぬい、そこに足して物語を作り上げる著者の構成力と表現力こそが圧巻だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。