『人身御供の緋山さん』第1巻
けものの★ ほるぷ出版 ¥570+税
(2015年7月9日発売)
緋山乃木子(ひやま・のぎす)、28歳、処女、独身。
人に関わるのが苦手な引きこもり。
仕事は、神様の生贄になること。通称「贄係」。
今や祀られていない神様はたくさんいる。そんな神様たちを鎮めるために、公共事業として人身御供を差し出す、という仕組み。
食べられるわけではない。たとえばジョロウグモには、ちょっと血を飲ませてあげる。妖刀であれば憑依させて、精肉所でお肉を思う存分スライスさせてあげる。ひとりぼっちの座敷わらしとは、いっしょに遊んであげる、などなど。
なんで乃木子がこんな仕事に就いたのかの経緯がキモだ。
彼女は「やりたいこともない」「特に不満もない」「とにかく人と関わりたくない」。
かたくななまでに人に会いたくない。犠牲を払ってでも働きたくない。
贄係なら、相手にするのは神様だけ。引きこもって神様たちの要求を聞けばいいだけのお仕事。
人に会うより神様と住むのを彼女は選んだのだ。
贄係もいちおう公務員。週に一度は市役所に報告に行く。これがもうダメ。人がたくさんいるだけで、身体が硬直してしまう。
コンビニもダメ。レジの店員がコワイ。マンツーマンになったらもう耐えられない。
著者の前作『ネガティブ・ツインタワー!』同様に、コミュニケーション不全の心理を、ギャグにしつつも繊細に描いた作品。
ただ、だれもが恐れる怪力長身女子が、友だち探しに躍起になる『ネガティブ~』に比べ、積極的に人と関わろうとしておらず、全力で社会から逃げるための努力をしているのが大きな違い。
そんなコミュ障な乃木子がなぜ神々なら話せるかというと。神々はいっさい嘘をつかないからだ。
人は何を考えているかよくわからない。このマンガの作中に出てくる神々は、やかましいけどまったく自分の素を隠さない。
損得感情もほとんどない。乃木子の贄がもらえればそれでいいのだから。
神々は乃木子を好いており、乃木子も心を開き始めている。
これはコミュニケーション不全のリハビリマンガなのだ。
今後もっとびっくりするような人外キャラが出てきて、乃木子がもみくちゃにされるのを期待しています。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」