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『πニャン』第2巻 東和広 【日刊マンガガイド】

2015/08/31


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『πニャン』第2巻
東和広 講談社 ¥565+税
(2015年8月6日発売)


ダメご主人様のために健気なネコが働く『ユキポンのお仕事』で知られる東和広の新シリーズが、この『πニャン』。
旅する1匹のネコがあちこちの家庭にお邪魔する……と書くと、ほのぼの系ネコマンガを想像するかもしれないが、今回はズシリと重い読みごたえだ。

主人公は1匹のネコ。名前はある。謎の老人・ケツダン師匠に命名された「πニャン」だ。
もとはちょっとニヒルで凛々しいネコだったはずが、ケツダン師匠に一喝され、鼻が「ω」の形の間抜け顔になってしまった。そんなπニャンが、人生の真実を悟る旅に出る。

πニャンが世話になるのは、普通に見えて心のなかに膿がドロドロと溜まっている人たちばかり。
思いこみで恋愛をしているつもりのストーカー青年、「負け組になるな」としつけられている小学生と自由人のホームレス……。
第2巻でも、口ばかりのニート青年と子供に依存する母、アイドルにハマる元活動家の訳ありおじさん……と、彼らはそれぞれ日々をもがいている。

πニャンはそうした人々の心に入りこんで、心象風景を見ることができる。
そこは心にこびりついた不満が魑魅魍魎と化して暴れ回るグロテスクな世界。πニャンはジタバタするだけで大活躍とはいかないが、ほんの少し何かを変えていく……。

本作は読み手の心の状態によって、感じ方も大きく異なるはず。
登場人物たちと似たような苦しみを抱えていれば、まさに抑圧された本心に気づかせてくれる、あるいは寄り添ってくれるマンガとなるだろう。逆に、この作品が何を言っているのかピンとこないという読者は幸せ者だ。

ネコのかわいさはところどころに顔を出すが、ネコマンガにあらず。
本作は、ネコという視点を通して読者に人生の意味を問う、とんでもなく深い人間マンガだ。



<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」(早川書房)でライトノベル評(ファンタジー)を連載中。
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単行本情報

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