『中村明日美子コレクションⅠ コペルニクスの呼吸』第1巻
中村明日美子 太田出版 ¥780+税
(2015年8月5日発売)
耽美でアーティスティックなストーリーから爽やかな青春もの、ボーイズラブまで、多彩ながらも独自の美意識に貫かれた作品世界でファンを魅了してきた中村明日美子のデビュー15周年を記念して、初期8作品が新装版で登場。本作はその第1弾に当たる。
ピエロの仮面の下に美貌を隠した少年・トリノス。孤高のジャグラー・レオ。少年を買う外交官・オオナギ。トリノスの死んだ弟と同じ名の青年・ミシェル……。
70年代パリのサーカスを舞台に描かれる、グロテスクで切なくも魅惑的な男たちの人間模様。
深い傷を抱え、過酷な運命に翻弄されながらも、愛と救済を求める美少年という設定、過激な性描写とリリカルなストーリーテリングは、萩尾望都ワールドにも通じる感じ。
流れるように美しいモノトーンの線描画も、ビアズリーを彷彿させる妖艶さで、このテの耽美モノは苦手という人も、読めば否応なく引きずりこまれてしまうような鬼気迫る迫力がある。
同時発売の第2巻(完結巻)では、弟の影に呑みこまれてしまったトリノスが自己を取り戻してゆく様が、サーカスの再生とともに描かれる。
唯一無比のデカダンスな空気で読者を魅了しつつも、けっして「雰囲気モノ」では終わらない、著者のストーリーテラーとしての力量に唸らされる。
中村明日美子ワールドの入門書にも格好の一冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69