『SFまで10000光年』
水玉螢之丞 早川書房 ¥1,900+税
(2015年7月31日発売)
50誌を超える連載を持ち、いつもポップなイラストと鮮やかな切り口のエッセイを提供してくれていた“いさましいちびのイラストレーター”水玉螢之丞。
2014年12月13日、55歳の若さでこの世を去った彼女。
その水玉氏が「SFマガジン」に10年にわたって連載を続けたコミックエッセイが、ついに単行本化された。
収められているのは1993年から2002年いっぱい、連載第117回まで。
自らを「SF者」と称する水玉氏だが、このコミックエッセイはSFだけに留まらずファンタジーやアニメ、ゲーム、フィギュア、マンガに映画、音楽ネタに地元ネタ、業界内輪ネタに病気ネタ……と、幅広いことこのうえない。
どんなネタでも水玉流にみごとに味付けされ、雑多なコンテンツはもう読んでいるだけで楽しい楽しい。
読めば読むほど、当時の時代性が、そして流行りものがまざまざと蘇ってくる。
1ページ目から黙々と没頭するもよし、夜寝る前にパラパラとお好みのページを読むもよし、読みごたえがあるなんてもんじゃありません。
巻末にある大森望氏の解説によれば、この10年あまりの間何度も単行本化が打診されていたものの、水玉氏はなかなか首を縦に振らなかったとのこと。
とはいえ、単行本化したいという気持ちは持ち続けていたらしい。
そして今回ようやく一冊の本としてまとまったわけだが、これが書籍として手元にあるのが今の時代でよかったとも感じる。
水玉氏のように博覧強記でなかったとしても、現在はネット検索という強い味方がある。
知らない、わからないネタを調べるうちに、読者がついついSF者になってしまったりするのも充分ありえること。
それを見て、水玉氏が空の上でほくそえんだりしてるといいなと思うのだ。
とにかく、深く濃く、それでいて軽く、まっすぐかと思えば斜めに、笑いのなかにもシリアスに、あらゆる方向からあらゆるものに対して発揮される水玉視点満載の一冊。
もしかしたらこの本を読むと、水玉氏のものの見方に密やかに感化され、日常にちょっとした“センス・オブ・ワンダー”が訪れるかもしれない。
皆様も、どうぞご一読のほどを。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」