『おやおやこども。』
木下晋也 PHP研究所 ¥1,200+税
(2015年5月21日発売)
『ポテン生活』などで知られる作者の、初のエッセイマンガとなる。
2011年の奥様の妊娠に始まり、長男コースケ君が生まれてからの生活を中心に描いたもので、いわゆる子育てエッセイだ。
世間でいわれるように、生まれてくれてありがとう! とか本当に思えるのか?
身体的に実感がない男性ならなおさらであろう。しかも、作者はその作風から推測されるとおり、無口で淡々とした性格のよう。
実際、作者もコースケ君が生まれたばかりの時期は「正直 父親になった実感ゼロ……」と心情を吐露する。
しかし、ほんのちょっとしたことの積み重ねで、子どもがいるのが当たり前になる日々が描かれる。
赤ちゃん用品店の店員さんの言葉を語り草にしたり、ことあるごとに「おりこう」などと評したりと、さりげないが親バカもばっちり噴出している。
傍から見て意味不明なのだが、その人なりに何か考えて行動しているのだろう……と解釈することは楽しい。まして、乳幼児のアクションの取りとめもなさや、大人から見ると不条理な挙動、または成長を見せる姿は、じつに観察しがいがあると思わせてくれる。シンプルな線で描かれた、そんなコースケ君の愛らしいこと!
子育てのたいへんさ、または逆にすばらしさが喧伝されがちな昨今、日常の地続きでありつつ、(ギャグ漫画家をも)笑わせてくれる存在が増えた、との謙虚な幸福感がなんとも心地よい。
そうそう、本来子育てってそういう位置づけのものだった、とこちらもくすりと笑わされながら気づかされる。
ボーナスマンガによるとシリーズ化も期待できそうだが、ぜひ、この秀逸なタイトルも引き続き活かしてほしい。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。