『ブラック・ジャック創作秘話』第5巻
宮崎克(作) 吉本浩二(画) 秋田書店 ¥552+税
(2014年8月8日発売)
『このマンガがすごい!2012』オトコ編で1位を獲得、多くのマンガレビューで絶賛された本作もついに最終巻。
ここまで有名になってしまったので、いまさら「このマンガがすごい!」とは言いにくいのだが、それでも巻をかさねるごとに「やっぱりすごい!」と感じていた筆者として、完結を機にひとこと言わせてもらえれば、本作の一番の“すごい”は、これまで誰もがなしえなかった、手塚マンガそのものの“価値の底上げ”だったように思う。
手塚マンガは、教科書的ヒューマニズムとでもいうべきデカい神輿の反面、ダークサイド満載の“元祖トラウマ”としても読み解かれ、平成生まれ世代に入ってくると、いよいよ「有名な作品は知ってるけどそれ以上でもそれ以下でもない」ぐらいの存在に……。
読み手の細分化とともに、“神様”であることすらあやしくなりつつあった手塚治虫の「すばらしさ」ではなく、創作にまつわる「狂気」のほうを、血と汗のにおいのする強烈なペンタッチとともに深掘りしながら伝えていく本作は、日本中の本棚で眠りかけていた(失礼)膨大な作品群そのものに新たな生命を吹き込むブードゥー呪術ばりの魔力に満ちていた。
ぶっちゃけ、ここまでヒットしたんだし、ダラダラ描き続ければ倍ぐらいの巻数いけるんじゃないか、ここで終わらせるなんてもったいない、とも思っていたのだが、最終話のエピソード(病床から電話で古株アシスタントを叱りつける)がちゃんとそのアンサーになっているのも見事。
全5巻あらためて……このマンガがすごいっ!(すいません)
<文・大西祥平>
マンガ評論家、ライター、マンガ原作者。著書に『小池一夫伝説』(洋泉社)、シリーズ監修に『ジョージ秋山捨てがたき選集』(青林工藝舎)など。「映画秘宝」(洋泉社)誌ほかで連載中。