『わたしの日々』
水木しげる 小学館 ¥1,296+税
(2015年8月4日発売)
水木しげる・御年91歳(連載開始当時)の新連載! ということで話題を呼んだ『わたしの日々』が単行本になった。
現在の調布の家と仕事場を行き来する日常をベースに、境港での幼少時代や南方戦線での記憶を織り交ぜつつ描かれたエピソードの数々は、水木ファンならば周知のものも多く、情報的な目新しさこそないが、仙人のように飄々と愉快に生を謳歌する姿に、肩の力が抜けるとともに、妙な元気がわいてくる。
水木三兄弟(お二方とも水木しげるに勝るとも劣らないキャラ!)が、お茶を飲みながらイヒヒヒ歓談する光景は、なんとも妖怪っぽく最高。
荒俣宏、京極夏彦、松田哲夫、呉智久、南伸坊……と思しき人物らの描写も楽しい。
オールフルカラーでコマ割りも大ぶりのため、精密な書きこみと彩色による美麗な画がぜいたくに楽しめるのもすばらしく、1コマ1コマに思わず引きこまれる。
また、南伸坊の解説とともに多数掲載された、少年時代に描いた絵画や捕虜となった南国でのスケッチ画、プロデビュー前の画帳……も興味深く、ファンには垂涎もの。
今年5月、本連載が突然連載終了となった際は、ネットでもニュースとなり、様々な憶測が噂されたが、本書巻末の娘・水木悦子さんによるあとがきでは、現在93歳の水木さんの最近のご様子が記されていて、思わずホッと胸をなで下ろしたり。
芸術家というものは、とかく死んで伝説化される傾向にあるが、この人だけは生き続けることでますます伝説化してゆきそうなだけに、とにかくお元気で長生きされることを切に祈ってます!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69