日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『ハイジと山男』。
『ハイジと山男』第2巻
安藤なつみ 講談社 ¥429+税
(2015年8月12日発売)
疎遠だった祖父の死をきっかけに、奥穂高岳の頂上近く、標高2315メートルに建つ山小屋・みどり小屋を訪ねた元派遣社員の高原羽衣路(たかはら・はいじ)。
祖父が遺したこの小屋にて、口は悪いが情に篤い霧島朝日(きりしま・あさひ)、マイペースながら頼りになる空木雅夜(うつぎ・まさや)とともに、女性ながら山小屋番として働く決意をする。
「スローライフ」や「山ガール」のような柔らかいイメージを打ち砕くほどに、非情な山の洗礼を受け、羽衣路は戸惑い、つまずくことも多々あった。
本巻では、羽衣路の女子らしさが良い方向へ働くことも多くなり、頼もしさも身につけ、ようやく山小屋番の仕事に慣れたかに思えた。しかし、さらなる試練が待ち受ける。『アルプスの少女ハイジ』のハイジは都会のフランクフルトにてアルムの山を恋しがるが、ビル街で育った現代女性の羽衣路は……。
山はけっしてすべてを受け入れてくれる場所ではない。古来は畏れの対象だったこともうなずける。
それでも山は、自分の家族のように愛おしく思える存在として、繊細なタッチで描きだされる。
羽衣路が知らぬ間に育てていた山や山小屋への愛情に加え、イケメン2人がいる環境となると、そこに芽生えるのはやはり……?
平坦な道ではなさそうだけど、恋の行方にドキドキするのは少女マンガの醍醐味として欠かせないもの。
いっぽうで、羽衣路の祖父の知人だという中年男性・茂手木のエピソードは悲哀にあふれている。
もしも、行き違いや争いで心のなかに険しい断崖ができてしまった時は、取り残されてしまう前に、辛さを乗り越えて挑む方がいいのではないか。
山好きならば共感必至、インドア派にも、ときめきながら考えさせられる。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。