日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『ピューと吹く!ジャガー』。
『集英社文庫 ピューと吹く!ジャガー』上巻
うすた京介 集英社 ¥650+税
(2015年8月18日発売)
1990年代から2000年代にかけて、「週刊少年ジャンプ」のギャグ枠における太い柱として存在感を示し続けたマンガ家、うすた京介。
そのうすたの『ピューと吹く! ジャガー』(2000~2010年)が、このたび文庫で再刊行された。
奇妙な格好でたて笛を吹きまくる奇行の男にして芸能人養成校の講師・ジャガーさんとギタリスト志望の若者・ピヨ彦による共同生活を軸に、ヒップホップ忍者やら超アガリ症のネットアイドルやら、いまでいう“残念”な仲間たちがくりひろげるスラップスティックギャグ作品、というのが本作のあらましだ。
連載デビュー作『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!マサルさん』で一世を風靡したうすた京介は、次の『武士沢レシーブ』でヒーローものを題材にしてマサルさんと違うところを志向したが、意欲の強さに人気がかみ合わず、残念ながら短期に終わってしまった。
それに対して連載3作目となる本作は、「マサルさん」の新進な荒削りだった部分を整え、発展させる方向に進んで作者最長の10年間という長期連載をものにした。「マサルさん」はセクシーコマンドーという架空の格闘技をあつかって読者をも幻惑したが、本作はひとまず音楽や芸能学校という分かりやすい題材にしたぶん、キャラクターの立たせ方に注力できたという面も成功の一因だろう。
マサルさん→武士沢→ジャガーさんという流れは、あたかも織田→豊臣→徳川で治まる歴史をみるようである。
今回刊行がはじまった文庫版は、全20巻435話から作者がエピソードをよりすぐり、上・中・下巻の3冊にまとめた傑作選になっている。
まず上巻は序盤から30話ぶんを収録。各キャラクターの性格が固まるきっかけがわかりやすく並べられている。
いままで巻数に気後れして未読だった人も、作品のおいしいところをピンポイントでつかめるこのセレクションを入り口としてみるとよいのではないだろうか。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
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