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『飛ぶ教室』第2巻 ひらまつつとむ 【日刊マンガガイド】

2015/09/29


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは『飛ぶ教室』

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『飛ぶ教室』第2巻
ひらまつつとむ 復刊ドットコム ¥1,600+税
(2015年8月18日発売)


人気作とも話題作ともならなかったけれど、心に残っている作品。
「少年ジャンプ」を読んできた読者なら、どの世代にもそんな一作があるはずだ。80年代中期のジャンプ読者にとって、このたび復刊されたひらまつつとむ『飛ぶ教室』は、間違いなくそんな作品だろう。

1985年24号から38号に連載された作品で、主人公たちは、当時からしてもすでに牧歌的といえるような小学生たち。好奇心旺盛な男子に、おしゃまな女子。そして人気の女性の先生。
そんな彼らのほほえましい日常のひとコマから、物語は幕を開ける。いや、ほほえましい日常が崩れるところから幕を開けるといったほうが正解だ。

本作で描かれるのは、校庭に試験的に設置されていた核シェルターによって、核戦争を生き延びた子どもたち。
たまたま警報音を聞いてシェルターに入った、タローたち生徒と北川先生だったが、北川先生は生徒を助けようとした際に死の灰(放射性物質)を浴びてしまう。
やがて外に出て知ることになる現実。北川先生も衰弱していくなか、子どもたちは自分たちだけで生きていくための行動を開始する。

核がもたらす恐怖の描写にしても、また精神的にも肉体的にも追いつめられた子どもたちの描写にしても、本作はやや穏やかすぎたといえるかもしれない。そこが本作が80年代の『漂流教室』(楳図かずお)とはなりえなかった点だろう。
ただ、核や戦争がもたらす脅威は子どもの目を通して丁寧に描写されている。
加えて、その真摯さ。タイトルはケストナーの児童文学『飛ぶ教室』から採られているが、本作もやみくもに恐怖や狂気をあおるセンセーショナルなマンガではなく、正当な少年マンガとして描かれている。まさに児童文学のような味わいだ。

冷戦時代の核とはまた違うかたちで、核と向き合う時代だからこそ読み返したい一作でもある。
しかしそれ以上に、ひらまつつとむという作家の子どもたちと向き合う姿勢、少年マンガと向き合う姿勢を再評価してほしいという意味でも、ぜひ読み返したい一作だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が発売中。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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