日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは『十年後、街のどこかで偶然に』
『十年後、街のどこかで偶然に』
津田雅美 白泉社 ¥429+税
(2015年9月4日発売)
『十年後、街のどこかで偶然に』は、そのタイトルどおり、「10年ぶりの再会」をモチーフに、時間が変えてしまったもの、変わらなかったものを描くラブストーリー。全5話で3つの恋模様が語られている。
現在は筆記具メーカーで働くスミレ(藤堂菫)と左官職人の槙。恋愛で傷ついた経験を持つカッシーこと樫原。疎遠になっていた幼なじみの北斗と、ふたたび距離を近づけるすばる……。
じつは彼女らは、みな同じ高校にかよっていた同級生。
大人なったからこそ理解できること、そして子どもだったからこそできたこと。
過去と今を繋いで語られるラブストーリーは、それだけでも奥行きあって魅力的なもの。代表作、『彼氏彼女の事情』で、読者を呼吸困難にさせるほどの重苦しく、それでいて引きこまれる心理描写を見せた津田雅美は、本作でも、男女ともの心の機微を、見事にすくいあげている。
収録作はどれも、ご都合主義的なベタつく甘さはない。痛みやずるさや弱さにも向き合ったうえでの、それでも人間や恋愛って素敵だなと思わせるような、ほのかな甘みがある。
そのなかに、子どもの鋭さでえぐるような目線と、大人の温かさで包みこむような視点が並び立ち、津田作品のさらなるステージとも言えるものになっている。
今一番読んでほしい、すべてにおいて本当の意味で上質なラブストーリーだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が発売中。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。