『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』
宮崎夏次系 講談社 \691
(2014年5月23日発売)
毎朝コーヒーを夫婦で淹れるために、近所の神社で水を汲む夫。幸せそうな夫婦だ。
しかし夫のなかに、淀んだ不満が積もりはじめる。突然、ものすごい勢いで鼻血を吹き出した彼は、心配顔の妻に向かって、こう言い放つ。
「さわるなビチグソ野郎」
ある日突然壊れて、犬になりきってしまった父親。
妻は何が悪かったかの心当りがない。「ふつう」にすごしていたはずだ。だからきっと少し休めば元通りになる。
しかし息子は食卓を蹴飛ばして言葉をもらす。
「クソったれだ」
「知ってたくせに、おとーさんが辛かった事。気づきたくなかっただけのくせに」
収録されている短編に出てくるキャラクターは、みんな屈折している。
それぞれ一定の幸せな日常を手に入れているなかで、モヤモヤが自分に蓄積し、苦しくて仕方なくて他人を傷つける。傷つけた瞬間に、自分が最低の人間だと、やっと気づく。
そんな本当にゴミカスのような気持ちが、いかにさみしく、誰もが感じていることだというのを伝えようと絵が叫んでいる。
だから、宮崎夏次系のマンガのキャラクターは、どんなにクソったれでも、愛おしい。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
たまごまごごはん