日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『闇金ウシジマくん』
『闇金ウシジマくん』 第37巻
真鍋昌平 小学館 ¥552+税
(2016年6月30日発売)
闇金「カウカウファイナンス」社長の丑嶋馨を主人公に、欲望にかられ借金に振り回される人々をリアルに描いて人気の『闇金ウシジマくん』。コミックスは累計1,000万部、実写映画化・TVドラマ化もされてきた(主演は山田孝之)。
7月からはTVドラマのシーズン3が放送。また、今秋には実写映画「闇金ウシジマくん Part3」「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」が公開予定と、ますます目が離せない。そうしたなか、この6月にはコミックスの最新刊、第37巻が発売された。
『闇金ウシジマくん』は、丑嶋は狂言回しで、彼の利用客こそが主人公というスタイルであった(そうした利用客の属性が「○○○くん」というかたちでシリーズのタイトルとなる)。
ところが、前巻(第36巻)までの「ヤクザくん」シリーズでは、丑嶋が当事者となり、暴力団らと戦うことになる。
対決の結果、命を狙われるおそれが出たため丑嶋は部下の柄崎とともに沖縄に逃亡――となって、第36巻の途中から新シリーズ「逃亡者くん」へと突入する。
丑嶋の沖縄行きには、もうひとつ目的があった。それは「ヤクザくん」シリーズで、彼を裏切った部下・加賀勝(マサル)を探し出し、オトシマエをつけることであった。自分が表だって動けない丑嶋は、情報屋の戌亥にマサルの探索を依頼する。
そのマサルは、村田仁と名乗り、那覇の闇金業者・金城のもとで働いていた。
マサルの顧客はといえば、野球賭博に入れあげる老人、課金制のスマホゲームにはまり借金を重ねる女、父親の障害年金をパチスロにつぎこむ息子……借金に溺れる者たちは、沖縄も東京も同じであった。
しかし、金融屋としての商売のやり方は、沖縄と東京では違っていた。
客を潰して回収する――というのが、マサルが学んできたやり方だったが、金城は沖縄では「客を潰したら持たない」という。「内地」(沖縄県外を指す)と違って世界が狭い沖縄では「貸しつけて/回収して/回転させるのが大事」とさとされるのであった。
逃亡生活を続けるマサルは、デリヘルで呼んだのどかに心ひかれる。
のどかは、保育士のかたわら風俗で働き、幼い子供を育てているシングルマザー。
同居している母親の借金と、ときどき現れては金をせびる暴力夫に苦しめられているのどかに同情したマサルは、彼女を立ち直らせようと行動を開始する。
その一方、戌亥による追求の手は、徐々にマサルに迫りつつあった……。
沖縄といえば、陽光照りつける明るいイメージを抱きがちであるが、マサルやのどかの目を通して描かれる沖縄は、必ずしも明るい面ばかりではない。
昼食を抜いて千円でも浮かそうとする、のどかのようなシングルマザーがいる一方、軍用地の借地料で毎月数百万円が入ってきて、デリヘル嬢をロングで呼ぶニートもいる。
平均所得は最底辺だが、高額納税者の割合が地方都市では一番高い、沖縄は超格差社会でもあるのだ。
こんな感じで社会の実相をさりげなく織りこみながら物語を進めていくのが、『闇金ウシジマくん』の特徴であり、筆者も好きなところなのだ。
第37巻では、戌亥の追求が実を結んで、丑嶋とマサルがいよいよ対決か――というところで、本書は幕となる。その一方で、マサルによるのどかの救済がどうなるのかも気をもませる。
次巻に期待である。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。