日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ごちそうは黄昏の帰り道』
『ごちそうは黄昏の帰り道』第1巻
志村志保子 集英社 ¥419+税
(2015年9月25日発売)
ましろが、やさしい両親から勘当を言い渡され、家を出ることになったのは、結婚式を間近に控えての婚約破棄が原因だ。
式場のキャンセル料に相手からの慰謝料、しめて総額170万円の借金を親に返済しながら、24歳の初めてのひとり暮らしが始まった。
どうにか借りられたのは駅から15分、築35年の風呂なし木造アパート。
これまで親に甘えきっていたましろは、スーパーでお米の値段に驚くほどの世間知らずでとまどうことばかりだ。生活費のやりくり、寒い夜の銭湯通い、質素な部屋ですごす寂しさに心折れそうなときも……。
そんななか、心のよりどころになっていくのが、階下に住む大家の鷺谷の存在だ。
32歳の鷺谷は、猫と甘いものを愛する地味な男。決して饒舌ではないが、どこか危なっかしいましろを気にかけている様子。
しかし、ひょんなことから、鷺谷が婚約破棄されて傷ついていると知り、ましろは他人事と思えず動揺する。立場は違えど、すねにキズ持つ身の2人はお互いに興味を抱き始めて……。
ましろも鷺谷も、見たところ当面恋愛なんて考えられなさそうな雰囲気ぷんぷん。
だけど、それでも人ってちゃんと心が動くのだ、と思うとなんだかホッとする。
気持ちの流れをていねいに描く本作、恋愛だけでなくましろの成長にも注目しながら読んでいきたい。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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