日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『古都こと -チヒロのこと-』
『古都こと -チヒロのこと-』第1巻
今井大輔 双葉社 ¥600+税
(2015年9月25日発売)
小さな鏡をきっかけに始まる恋物語。
京都・五条の由緒正しき窯元を実家に持つチヒロは、洛北大学の新入生だ。引っこみ思案で女子力の低さを自覚している彼女は、自分を変えるきっかけを探していた。
そんなとき、大学の構内でひとりの青年と運命的な出会いを果たす。
こうしてアウトラインをたどると「なるほど、京都を舞台にした淡いラブストーリーか……」なんて思うでしょ? ところが本作は一筋縄ではいかない、実験的な手法で紡がれているのだ。
「漫画アクション」(双葉社刊)で連載中なのが今回紹介する『古都こと -チヒロのこと-』。いっぽう、「ヤングチャンピオン」(秋田書店刊)にも同じ世界観の作品が連載中で、タイトルは『古都こと -ユキチのこと-』。こちらはチヒロが運命の人だと思いこんでいる青年・ユキチを主人公にした物語。
つまり女性視点(チヒロ編)、男性視点(ユキチ編)のストーリーが並行して描かれているのだ。
男女別視点のザッピング作品といえば、日暮キノコの『喰う寝るふたり 住むふたり』が記憶に新しいが、あちらは「コミックゼノン」(徳間書店刊)に同時収録されていた。
ところが本作は出版社の垣根を越えて男女別に掲載。だからして、「アクション」の読者はユキチの行動が気になったら「ヤンチャン」を読まねばならないし、「ヤンチャン」読者はその逆だ。
うーむ、この出版不況のなか、斬新な協力態勢を敷いたものですなぁ。
てなわけで、コミックスもチヒロ編、ユキチ編と同時発売。もちろん価格も一緒。
出版社をまたにかけているとはいえ、装丁などはそろえており、表紙を並べると五条大橋にチヒロとユキチが立っている仕様となっている(微妙な距離感がすばらしい)。
どちらか一方だけを読んだとしても1本のストーリーとして成立しているが、両方読むことでセリフの裏に隠された意図や、小道具の持つ意味が浮き彫りになってくる。
ぜひとも、このハーモニーを楽しんでほしい。
たとえば、この『古都こと -チヒロのこと-』では恋愛補正がかかった女子目線でユキチがりりしく描かれているが、『古都こと -ユキチのこと-』を読んでいただければ、「え、こんなヤツだったの!?」と目を丸くすることになる(注:チヒロ編→ユキチ編と読んだケース)。
初々しい恋愛だとしても、痴情は必ず介在する。男女それぞれに思惑があり、水面下で駆け引きが行われているのだ。
どちらか一方を読むことで、そこが絶妙に隠され、ミステリーの要素も加わっていく。おかげでハラドキも胸キュンも倍増だ。
はたして2人の恋の行方やいかに!
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしているライター。「ルパン三世ぴあ」に参加。10月にスタートするルパン新シリーズの友永秀和総監督にインタビューしました。