『STEAL AND DEAD』第1巻
三部けい スクウェア・エニックス \617
(2014年6月4日発売)
「ヤングエース」連載の『僕だけがいない街』で、俄然注目の高まる三部けい最新作。
ド派手なアクションが前面に押し出された本作は、『僕だけがいない街』と読み心地はまったく異なる。
もっとも、著者は以前から『テスタロト』や「カミヤドリ」シリーズなど、"アクションもの"は多く手がけており、以前からのファンにとっては、むしろなじみ深いジャンルの作品と言えるだろう。
物語の舞台となるのは、民間企業が運営するカトマンズ刑務所(プリズン)。申請書さえあれば世界中から入所が可能だが、「世界一脱獄が難しい」といわれる刑務所である。
そんな刑務所に入所希望者が絶えない理由は、受刑者が担当する特別刑務作業「任務(ミッション)」の存在だ。
その内容は、まるで怪獣のごとき巨大な「神」を、チームで討伐するというもの。その成果内容によって、受刑者の減刑が行われるのである。
動物を模したマスク姿のチーム、特殊な能力を行使できる「魂鍵(アーティマスティック)」(「神」を討伐する最大の目的も、これを回収することにある)など、散りばめられた設定は、アクション作品として非常にキャッチー。
さらに、基本的に全員が囚人という"悪人しかいない場所"における人間関係の緊張感も気持ちいい。
いまだ謎の断片がチラ見せ状態ではあるが、そこにしっかりと詰められた設定や世界観は十分に感じられる。
アグニやカーリーなど、インドの神々を相手に「任務」が行われているカトマンズ刑務所以外に、大天使ラファエルを米軍が討伐する描写が登場するなど、この先の広がりも非常に楽しみである。
キャラクターの掘り下げに関しては、「ロキ」と呼ばれる正体不明の主人公など、まだこれからといったところだが、それが本巻の終盤でグッとくる引きとなっているのも心憎い。
巨大なバケモノと人間の死闘というのは"定番メニュー"とも言える題材。
それを、今ノリにノッている三部けいが、どこまでおいしく磨き上げるか注視したい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。