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『螺旋じかけの海 音喜多生体奇学研究所』第1巻 永田礼路 【日刊マンガガイド】

2015/11/21


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『螺旋じかけの海 音喜多生体奇学研究所』


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『螺旋じかけの海 音喜多生体奇学研究所』第1巻
永田礼路 講談社 ¥620+税
(2015年10月23日発売)


これはすごいものに出逢ってしまったな、というのが一読後の感想だった。

いわゆるバイオSFというジャンルに分類されるものだが、ヘヴィな題材を扱いつつ、みごとに独自のワールドを創りあげた注目すべき作品だ。

物語の舞台は、遺伝操作が産業として発達し、様々な異種動物のキメラ体が存在する世界。
動物と動物だけでなく、動物とヒトのキメラ体――体内に異種遺伝子を持つ“異種キャリア”として、獣化した人間も少なくない。
見た目も、融合した動物の特徴が出てくる。その割合は個体差があるが、鳥ならば翼が生え、爬虫類なら鱗が表皮に現れる。
またこの世界ならではのルールがあり、獣化の割合が「ヒト種優生保護法」を越えてしまうと、人間と見なされないのだ。
しかも高い商用価値を持つために、特に裏社会で引く手あまたとなる。つまり、ダークな商売が横行しているということ。

この特異な世界に生きる主人公が音喜多、通称・オトだ。
彼は遺伝操作を行うモグリの生体操作師であり、人を食ったような酒飲みのオヤジだが、その腕は超一流。
オトもまた異種キャリアであり、しかもそれが複数あって突然獣化する。
それに難儀しつつも、オトはみずからを実験体と見なしている。

「ヒトの線引きからあぶれた生き物を好きにしていいなら、私も私を好きに扱っていいだろう?」
この衝撃的なセリフは、オトの人となりを表す象徴とも言えるだろう。

そう――ここは、ヒトと動物との境目が容易に揺らぐ場所なのだ。
人間が人間であるということは、どういうことか。
このマンガはその質問に、様々なエピソードで真っ向から向き合わせてくれる。

刮目すべきは、これだけの世界観を説明するのに、ナレーションをひとつも使わず、すべてセリフと絵だけで表現していることだ。
じつはこれ相当高度なテクニックなのだが、著者はごく自然にクリアしている。これがデビュー作とは思えない完成度だ。

続編を心の底から楽しみにできる作品がこの世に出てきたことを、たいへんうれしく思う。



<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」

単行本情報

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