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新装版『マンホール』上巻 筒井哲也 【日刊マンガガイド】

2015/05/15


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新装版『マンホール』上巻
筒井哲也 集英社 \720+税
(2015年4月17日発売)


マラリアのように、蚊などの吸血昆虫によって感染が拡大する新種の寄生虫が現れたら? という設定で描く傑作バイオパニックスリラーの新装版だ。
たしかな画力と、軽妙な台詞回しのため、グロテスクなテーマだが読みやすい。

警察の溝口と井上は、全裸で徘徊する男性が大学生に血を吐きかけ、突き飛ばされて昏倒し頭を打って死んでしまったという事件の捜査に駆り出される。
麻薬中毒者の奇行と、それの巻き添えを大学生が食っただけ、という当初の見立ては大きく覆され、死者の眼球からは新種の寄生虫が、そして重要参考人として出頭してきた大学生からも、その寄生虫が発見される。

最初の死者となった人物の足跡をたどるうちに、溝口たちは寄生虫を使ったロボトミー手術という恐るべき計画の存在に突き当たる。
犯人として浮上してきたのは、謎の自称写真家。本作のタイトルである「マンホール」とは、彼が虫に被害者の脳を喰わせるためのアジトなのだ。
だが、彼は何のためにこんな計画を立てたのだろうか。謎は深まるばかり。

街で感染者が静かに増えていくなか、溝口たちは事件の真相を追う。だが溝口も感染してしまうに至り、万事休すかと思われたが、井上は決死の覚悟で犯人を追い詰める。

蚊に限らず、汚染された血液を体内に入れてしまったら感染してしまうという寄生虫の恐怖と、虫に脳を破壊された虚ろな被害者たちの姿の生々しさも本作のひとつの魅力だと言える。
なにより強烈なのは、犯人の計画の動機と、それを遂行せしめるどこまでも暗く重い決意だ。

本作は単にグロテスクなだけでも、単に巧妙なだけでもない。
この苦い味わいをかみしめてほしい。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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