365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
11月26日はモンゴルの独立記念日。本日読むべきマンガは……。
『秋田文庫 チンギスハーン』第1巻
横山光輝 秋田書店 ¥562+税
11月26日はモンゴルの独立記念日である。
中華民国から独立したモンゴルは、1924年11月26日に社会主義国を宣言し、モンゴル人民共和国となった。
さて、モンゴルの名を世界に知らしめた歴史上の人物といえば、もちろんチンギス・ハーンをおいてほかにない。13世紀、ユーラシア大陸に世界最大版図の帝国の礎を築いた一代の英傑だ。
このチンギス・ハーンの生涯を描いたのが、横山光輝『チンギス・ハーン』である。
横山光輝はSFや忍者物などさまざまなジャンルを手がけたが、歴史物では『水滸伝』、『三国志』で中国史(四大奇書の2つ)を描いたのち、日本の戦国時代(『徳川家康』、『織田信長』、『伊達政宗』、『武田信玄・勝頼』、『豊臣秀吉 -異本太閤記-』)を次々とマンガ化していった。
その流れが一段落すると再び中国史に回帰し、『項羽と劉邦』と『チンギスハーン』の執筆をほぼ同時期に開始する(その後に『史記』)。
つまり「歴史マンガを描くノウハウを完全に熟知した」ベテランが、そのスキルをあますことなく注ぎこんだのが本作『チンギス・ハーン』といえるだろう。
歴史を物語るのに必要な最小限の情報だけを的確に配し、テンポよくストーリーを進めていく手腕は、さすがベテランの妙味と感心させられるはずだ。
物語はテムジン(チンギスハーンの初名)が生誕するところから始まる。モンゴル族をまとめ、金国へと攻めいり、天寿をまっとうするまでが描かれていくが、とりわけテムジンとしての前半生に多くの紙面がさかれているのが特徴だ。
父・イェスゲイ死後、苦難の放浪生活を余儀なくされたテムジンがどのようにこの苦境を乗りこえていったのか。なにしろ「テムジン」とは「鉄の人」という意味である。テムジンの不撓不屈さ、心の折れない強さが示され、主人公に対する感情移入とリスペクトを抱くに違いない。やはり横山光輝は、「鉄人」を描かせたら三国一である。
そして「英雄の無名時代」を語るうえでは欠かせない、真偽不明なフォークロア的なエピソードを交えつつ、主人公のサクセス・ストーリーをつむいでいく。
それはまさしく「少年マンガ」の文法である。
日本マンガ界のレジェンドが、世界史の英雄を描く。
スケール感の大きさに、ユーラシア大陸の風を感じ取ろう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama