日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』
『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』第1巻
マキヒロチ 講談社 ¥565+税
(2015年11月9日発売)
インディペンデントな作品や隠れた名画を数多く上映してきた吉祥寺バウスシアター。
昨年惜しまれながらも30年の歴史に幕を閉じたが、そのバウスシアターの閉館のお知らせを眺めながら、「吉祥寺も終わったな」とつぶやく2人のポチャ系メタル女子の姿から本作はスタートする。
この2人は吉祥寺の片隅で「重田不動産」を経営する双子の姉妹だ。
ときどき恵比寿や自由が丘に首位の座を奪われることもあるが、基本的には東京の住みたい街ナンバー1の座を守り続けている吉祥寺。
京王線の急行で渋谷まで20分、中央線の快速で新宿まで16分という好アクセスで、駅から至近距離に井の頭公園という憩いの場を擁し、映画館、ライブハウス、中古盤屋といった文化的スポットもすこぶる充実。パルコもあれば丸井もあり、ハモニカ横丁のような飲み屋街や渋い喫茶店、オシャレな服屋にオシャレなカフェもわんさか……と、まさに文句のつけようのない街である。
そんな吉祥寺に憧れて、重田不動産にやってくる若い女性たち。
そんな彼女たちに対して重田ツインズはこう言いはなつ「吉祥寺だけがいい街じゃない」。
吉祥寺という幻想にとりつかれた女性たちに新たな扉を開けてもらうために、重田ツインズはさまざまな街へと女性客を強制連行する。
昭和の面影を色濃く残す雑司ヶ谷、オフィス街と見せかけて思わぬ穴場の五反田、どこへ行ってもスカイツリーに見守られている錦糸町、上品でのんびりとした駒沢大学、商店街だらけの中野~新井薬師……。
ライフスタイルにピッタリの街に思いもよらぬ形で出会った女性客たちは、みな笑顔で新生活を始めていく。
本当は吉祥寺愛にあふれているのに、変わりゆく地元を嘆きながら、今日も今日とて“ほかのいい街”を紹介してしまう重田ツインズ。
次はどんなエリアを案内してくれるのか、続刊が楽しみだ。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしているライター。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。