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『KEYMAN』第10巻 わらいなく 【日刊マンガガイド】

2015/12/07


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『KEYMAN』


KEYMAN_s10

『KEYMAN』第10巻
わらいなく 徳間書店 ¥620+税
(2015年11月13日発売)


ロックヴィルシティの平和を守る男・キーマン。空を飛び、銃弾も跳ね返す強靭な肉体を持つ超人が殺害された! その遺体の胸には「DrNECRO」の7文字が刻まれていた。
そして、超人殺害事件の謎を追うアレックス警部の目の前に、Dr.ネクロと名乗る少女が現れる。ネクロは、みずから「魔女」だと告白し、こう告げる。「キーマンとは総称だ 鍵を握る者 それがキーマン」。ここからネクロ&アレックスのコンビと「キーマン」たちとの戦いの火蓋が切って落とされる――と、これは『KEYMAN』第1巻の内容にすぎない。ここから物語はいろいろと拡がっていくのだが、それを書くとネタバラシになるので、あらすじ紹介はこのくらいにして、本作の特徴などを語っていきたい。

さて、まずは独特の世界設定を挙げておきたい。
舞台となるロックヴィルシティの街並みは1920年代のアメリカを連想させるのだが、ひとつだけ我々が知るアメリカとは大きく異なる点がある。それは「獣人」の存在だ。
獣人とは、動物の特徴・能力を持った人間のことである。鳥のように空を飛べたり、猫のように敏捷であったり、と優れた身体能力を持つのだが、その特異な外見から、通常の人類種から差別を受けたりもする。

主人公のアレックス警部もティラノサウルスの獣人で、複雑な謎を追求する知性と恐竜の怪力をあわせ持つタフガイだ。
しかし、恐竜のいかつい外見のため、誤解を受けることもしばしばある。それでも獣人であることに誇りを持ち、差別や偏見に屈することなく生きている。
アレックスは、サム・スペードやフィリップ・マーロウのようなハードボイルド探偵の系譜に連なるキャクラターだと言えよう。

もうひとつの特徴は、アメコミ的絵柄、画面構成である。
銀行強盗が「BRATA TA TA」とマシンガンをぶっ放し、その銃弾をキーマンが「KRANG KRANG」と跳ね返す――といった効果音の表現にはじまり、絵のタッチ、コマの割り方などいかにもアメリカンである。
わらいなくも、コミックスの著者紹介で「アメコミファンの気さくなお兄ちゃんだ」と自称しているが、アメコミへの愛情があふれた作品である。 ちなみに、『KEYMAN』がスタートした2011年には、久正人『エリア51』の連載も始まった。『エリア51』は神、モンスター、UMAを集めて隔離した、アメリカ51番目の州「エリア51」を舞台に、人間でありながら探偵業を営む真鯉徳子(マッコイ)を主人公としたもので、絵柄もアメコミ調でと本作と通じるところがある作品だ。
こちらも現在11巻まできているので、手を出すのを躊躇するかもしれないが、興味のある方はぜひ読み比べてほしい。

ところで、こうした獣人たちは、物語が始まる40年ほど前から世に出てきた。通常の人類の両親から、なぜ獣人が生まれたのか? そうした謎は、物語の巻を追うにつれて徐々に明らかになっていく。
そして、2016年春発売予定の第11巻ではいよいよ最終決戦となる。まだこの作品にふれていないならば、今のうちに追いついて来春を待とう。

最後に著者を紹介しておく。わらいなくは、北海道出身。2010年の第7回龍神賞(COMICリュウ新人賞)で銀龍賞を獲得しデビュー(受賞作「孫市がいくさ」は第2巻に収録)。
「月刊COMICリュウ」2011年6月号より本作の連載を開始した。ちょっと変わったペンネームついては「笑ったり泣いたり、という意味です。人生です(笑)」と安彦良和との対談で語っている(第2巻に収録)。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵女子」(小学館)にコラムを執筆。

単行本情報

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