日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ラブコメのバカ』
『ラブコメのバカ』第1巻
櫻井しゅしゅしゅ 講談社 ¥581+税
(2015年11月6日発売)
「作家と編集者で殴りあい」とか「原稿500枚ボツ」とか「落ちた原稿を窓から投げ捨てる」とか、漫画家と編集者の逸話には事欠かないマンガ界。
魂をぶつけあうような濃い関係を見るに、これ男女だったら普通に恋愛に発展しそうだなー、そういや少女マンガだと編集者と結婚した先生ってけっこう多いんだっけ……なんて考えてしまう。
そんなわけで、女性漫画家と男性編集者の関係ってどんな感じなのよ、と手に取ったのが、櫻井しゅしゅしゅ『ラブコメのバカ』。
なんでも「担当編集のHさん、IさんMさんと自分の実話をもとにした5年間の思いがぎゅっとつまった濃縮還元ストーリー(現在進行形)」とのこと。
締め切りやぶりの常習犯な漫画家・佐藤は、打ち合わせ遅刻の最長記録が24時間とか、編集部に1カ月泊まりこむなど、かなりのダメ人間伝説を持つ新人(そしてその多くは著者が実際にやらかしたことらしい……)。
そんな彼女の前に現れた新担当はイケメン王子・長谷川。テンションを上げる彼女だったが、彼は佐藤のことを「ゴミ」呼ばわりするようなドSで……
みたいな感じで新人女性漫画家の恋と仕事を描いていく本作なのだが、とにかく、イケメン編集者に会えばときめき、あるいはイケメンデザイナーに会えばときめき、と常に恋愛脳全開で、恋と仕事が完全に結びついている主人公がスゴイ。
たとえば同じ漫画家でも『バクマン。』のサイコーなんかは、「マンガをヒットさせてアニメ化してヒロインと結婚する」と、仕事と恋愛はきっちりわけている。
けど本作の佐藤は違う。出会った編集者やデザイナーに恋をする、その人のためにがんばりたいからマンガを描く、そして、だからこそマンガが描けるって感じで、仕事と恋愛の区別が全然ない。区別する必要も感じていない。マンガへの愛と仕事相手への恋が不可分に結びついてひとりの漫画家をかたちづくっている。
そして、このマンガを描いている当の著者自身、おそらく、そういう主人公の姿勢が「変」なものだとは全然思っていない、だからこそ、このマンガを描くことができる……。
「仕事のつきあいとプライベートは混同しちゃイカンよね」なんてどうしても考えてしまう自分からすると、前提条件というか住んでいる文化が異なりすぎて(どこまで一般化できるものなのかはともかく)文化人類学的なおもしろささえ感じてしまう、じつに興味深い一冊であった。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas