日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『私・空・あなた・私』

『私・空・あなた・私』第2巻
いくえみ綾 幻冬舎 ￥630+税
（2015年11月24日発売）

漫画家歴36年の重鎮であり、現在も『あなたのことはそれほど』、『太陽が見ている（かもしれないから）』、『G線上のあなたと私』など、多くの連載を抱える人気作家・いくえみ綾の最新刊。

義母の胡桃と異母姉妹の林檎、杏の家に引き取られた中学生のれもん。明るく無邪気にふるまうれもんを、胡桃たちもやさしく気さくに迎え入れる。

浮気相手の子どもを引きとるという男前キャラながら、美人でちゃんと稼いでいて掃除や料理もちゃんとこなし、れもんを特別扱いするでもなく、自分の子どもと同じように叱れる胡桃。
そんな彼女に心から感動し、感謝しながらも「なんだかとっても正しすぎて すごすぎて お父さんは胡桃さんのそんなところがめんどくさかったんじゃないのかなぁ」と考える、れもん。

一方、林檎と杏も
「れもんていい子だよねえ」
「そうだね」
「いい子すぎてちょっと気味わるいねえ　うちにもスルってなじんじゃったし　そんなもん？」
「何よもっとドロドロしたかったの？」
「まさか～」
と、れもんに好意を抱きながらもモヤッとしてものを感じていて……。

彼女たちの父親（であり夫）、彼女たちをかき回す存在となる植木職人のイズミを含めて、この世界には、明確な悪意を持つものは、だれひとりとして登場しない。
特に女たちに関しては、だれもが「悪人」にならないように必死で自分の感情を押さえこみ、とりつくろっているのが、なんとも「現代的」で不気味ではあるが、本人視点に立てばせつなくもある。 そんな本人も無自覚な心の奥ひだにまとわりつく陰影を、飄々としたリアリティたっぷりに描いてゆくあたり、さすがいくえみ綾！
無自覚にだれかを傷つけたり、傷つけられたり。現実ってこういうもんだよなーと、ハッとさせられる。

『あなたのことはそれほど』と同様、登場人物みんな悪人ではないのにだれにも共感できなくって、でもリアルでせつなくって……。この感じ、クセになるかも。
女たちの不穏な恋模様もまだまだ序章だけに、目が離せない！

＜文・井口啓子＞
ライター。月刊「ミーツリージョナル」（京阪神エルマガジン社）にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」（DU BOOKS）寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69