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『太陽が見ている(かもしれないから)』第2巻 いくえみ綾 【日刊マンガガイド】

2015/04/20


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『太陽が見ている(かもしれないから)』第2巻
いくえみ綾 集英社\420+税
(2015年3月25日発売)


高利貸しの息子に生まれついてしまったがために、裕福ではあるが屈折した少年に育ってしまった楡(ニレ)。
その中学生時代からの同級生で、ごく淡い恋心を楡に寄せる少女・岬(みさき)。そして、かつて楡に傷を負わせたことのある男の娘で楡の幼なじみでもある日帆。
ひとりの少年と2人の少女は、楡が父親の金で暮らす家にほぼ同居することになる。
はっきりとしたいわゆる恋愛のような強い関係ではなく、なんとなくゆるやかに維持される友情がこの三角関係を支えていて、恋心がそこに芽生えたりしたら、あやういバランスが崩れてしまう……。

そんなところに、日帆にちょっと強引に迫る飯島(兄)が現れたり、楡は父親から送金を絶たれてしまったり。なお、岬は飯島(弟)を中学生の時にふっている。
かわいそうな飯島兄弟。弟のほうは岬以外の彼女ができたみたいだけど。
やがて日帆の楡に対する気持ちも、岬の楡に対する気持ちも、徐々に恋心としてはっきりと意識され始め、穏やかで幸せだったはずの3人の共同生活に不穏な気配が忍びよる。

楡の母親は彼が幼い頃に亡くなり、楡の父はあくどい高利貸しということで息子の楡からもひどく嫌われている。
岬の母親は愛人の男を家に入れているが、その男は寝ている岬を襲おうとした疑いがある。
日帆の父は、楡を襲ったことから前科者となり、日帆の両親はそれがきっかけで離婚することとなり、日帆は叔父と叔母の世話になっているがそれは彼女の精神的な負担になっている。

聖人君主とはいいがたい大人たちの生活とは別の層に、主人公たち3人は生きているようでいて、彼らの生活は主に楡の父の高利貸し業の上に成立している。
この認めがたいうしろめたさが本作の魅力でありリアリティなのだが、それもあいまって、とにかく楡君が魅力的。

いくえみ綾の描く、か細くうらぶれた美少年たちはいつも非常にすばらしいのだが、楡君の絶妙な強さと弱さの配合は強烈な吸引力がある。
こんなかわいい男の子を三角関係の中に置いたら、そりゃバランス崩れちゃうよ! 仕方ないよ!

岬ちゃんも日帆ちゃんもつらいね……という目線でも楽しめる。ぜひ悶絶しながら読んでほしい。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn

単行本情報

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