365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
12月22日は「蛮勇演説」が行われた日。本日読むべきマンガは……。
『愛蔵版 蛮勇引力』上巻
山口貴由 白泉社 ¥933+税
1891(明治24)年12月22日、設立間もない帝国議会(第2回)にて薩摩藩出身の樺山資紀(かばやまのりすけ)海軍大臣(当時)が、海軍の予算案を大幅に削減されたことに激昂して民党を批判する演説を行った。
……って、ちょっと経緯がわかりにくいですね。もう少し簡潔にいってみよう。
明治時代の日本政府は当初、その立役者たる薩長つまり鹿児島や山口出身の人間が幅をきかしていた。もちろん樺山海軍相もそのひとり。
一刻も早く欧米列強に比肩したい軍部が強硬に推し進める富国強兵策に抵抗していたのが民党。これは政党名ではなく「自由民権運動で議会に新規参入した庶民代表の政党」ぐらいの意味で、彼らは「民力休養・政費節減」を主張して「いやいや、軍備より国内の生産力アップにカネを使いましょうよ」と海軍案を蹴ったわけだ。
この決定に対して樺山海軍相は「バカヤロー、これまで国難を切り抜けたのはなんだかんだ言っても俺ら薩長が作った海軍のおかげだろうがよ。(意訳)」とブチあげちゃった。
当然ながら“庶民代表”の民党は黙っちゃいない。結局、松方正義首相は12月25日に衆議院解散を行うこととなった。
これがいわゆる「蛮勇演説」のてんまつ。つまりここでの「蛮勇」は、「考えなしの蛮行」という批判的な意味でつけられている。
しかしながら「蛮勇」という言葉には「勝ち負けなんて度外視、とにかくイヤなものにはNOをつきつける」みたいな、中二病から治ってない永遠の少年には魅力的にうつる言葉でもある。
山口貴由の『蛮勇引力』は、西暦2051年の日本を舞台に、スーパーテクノロジー「神機力」を独占する徳川神機力産業にたったひとり反旗をひるがえした男・由比正雪の物語。
いうまでもなく本作は江戸時代に起こった“由井”正雪による浪人蜂起事件「慶安の変」をモデルにしている。
慶安の変は未遂に終わり、結果的に徳川政権の磐石なることを証明しただけの蛮勇だったワケだが、『蛮勇引力』のほうは圧倒的な神機力と徹底的に統制された民意に対して絶対に膝を屈しない由比正雪の活躍をたっぷり堪能できる。巻数も少なく手ごろなので、ぜひご一読いただきたい。
生きていれば世のなかに対する「怒り」がいくつか出てくることもあるだろう。
だれかしらにもの申したい自分がいることだろうが、声を上げることは勇気なのか? それとも蛮勇か?
そんな時はいったん立ち止まって『蛮勇引力』を読んでから考えてみたっていいんじゃないだろうか?
<文・富士見大>
編集・ライター。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。「『仮面ライダードライブ』フォトブック~Drivin’Album」や『別冊宝島2394 仮面ライダー』もやってます。