365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
12月29日は南方熊楠(民俗学者)の命日。本日読むべきマンガは……。
『水木しげる漫画大全集080 猫楠他』
水木しげる 講談社 ¥2,100+税
1941(昭和16)年の本日は、菌類学者や民俗学者などとして知られる南方熊楠が亡くなった日。
……と、ひとまず職業的な肩書を挙げてみたものの、この御方はそんな簡単にカテゴライズできるような人物ではありません。
和歌山県に生まれたのち、東京での学生生活を経て1886(明治19)年に渡米。そこで生物学を学び、さらにイギリスへと渡って大英博物館で働きながら、科学雑誌『ネイチャー』に論文を数多く寄稿。
そして日本に戻ってからは、新種の菌類を70種も発見するなど菌類学者としての実績も残しつつ、ひとつのジャンルに縛られることなく、民俗学や自然保護の分野でも大きな足跡を残している。
しかし、むしろ南方熊楠といえば、その一般的な学者のイメージからは大きくかけ離れた破天荒な奇行の数々のほうが有名なのではないだろうか? 18カ国語に通じ……というのはいいとして、たびたび酒でキャリアを棒に振るほどの大きな失敗を重ね、嫌いな人物には自由自在にゲロをかけるなど、無軌道にもほどがある人となりでも知られている。
そんなキャラの立ちすぎている人物であるがゆえ、南方熊楠を題材とするマンガ作品は何本も存在するのだが、やはりここは、今年あちらの世界へ旅立たれた水木しげるの筆による『猫楠』を紹介しないわけにはいかないだろう。
『猫楠』は1991年から連載が始まった、水木しげる作品の中ではかなり晩年に描かれた作品。
実際に猫を非常に愛していたという南方熊楠を、人語を解する飼い猫・猫楠を狂言回しとして描いたものだが、その内容のほとんどは学者としての業績の部分ではなく、南方熊楠の奇行っぷりの描写に割かれている。
さらに怪奇・幻想世界のフィクション(たぶん)が史実と溶けあい、単なる伝奇物ではなく、どこからどう読んでも水木しげるの作品へと昇華されている奇跡の一作であります。
それにしても、あの水木しげるをも魅了し、晩年の創作意欲を刺激し続けた南方熊楠という人物、恐るべし。
今日という日は、どう考えても尋常ではないそのお二方をしのびつつ過ごされるのも、よろしいのではないでしょうか。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。