365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
1月1日は尾田栄一郎の誕生日。本日読むべきマンガは……。
『ONE PIECE』第1巻
尾田栄一郎 集英社 ¥390+税
あけましておめでとうございます。2016年も当コーナーをよろしくお願いいたします。
さて、元旦といっても基本的にはフツーの1日。もうすぐ生まれようとしている命に「お正月でみんなゆっくりしているだろうから、世俗へ出ていくのはもうちょっと待っておこう」なんて考えはないわけで、当然ながら1月1日生まれの方々もいらっしゃる。
日本で一番売れているマンガ『ONE PIECE』の著者、尾田栄一郎もそのひとりだ。
1975年1月1日に熊本で生を受けた尾田は、油絵を趣味にしていた父親の影響で絵を描きはじめ、4歳にして漫画家になることを決意したという。
その理由は「大人になっても働かなくていいんだ!」。
とはいえ実際のところ、漫画家たちは〆切に追われてヒーヒー言いながら“仕事として”漫画を描いている。大人になった尾田だって、もちろんそうだろう。
だが基本的な精神は4歳のころから不変であり、『ONE PIECE』の主人公・ルフィに、そのまま投影されている。
ルフィは猛烈に好奇心が旺盛で、ワクワクする冒険が大好き。
究極の夢は「ひとつなぎの大秘宝=ワンピース」を見つけて海賊王になること。そのために仲間を集め、立ちはだかる敵を次々と倒していく。
10代後半という設定ではあるが、尾田のなかでは無邪気な“理想の子ども”。
だからして、興味のない仕事で対価を得るなんて考えは微塵も存在しない。礼儀も知らなければ常識も知らない。こうしたルフィの立ち振る舞いに感情移入できずに脱落してしまう人もいる。
たしかにルフィは傍若無人な面があるが、一方でなによりも仲間を大切にするという強い信念を持っている。『ONE PIECE』は日本人が大好きな任侠をベースにしたマンガなのだ。
尾田はスタジオジブリ社長・鈴木敏夫との対談で、『ONE PIECE』は『七人の侍』をイメージして作られたと明言している。また同対談では清水次郎長を主人公とする『次郎長三国志』が源流にあることも語っている。
第1話をひもといてみよう。
山賊たちが赤髪のシャンクス(ルフィの憧れる海賊)を小馬鹿にした会話をしているのを耳にしたルフィは、ケンカをふっかけ、逆に袋叩きにされてしまう。
そこへ現れたシャンクス一行。酒をぶっかけられても怒らなかったシャンクスだが「友達を傷つけるヤツは許さない!」と激しく憤る。
旅を続ける渡世人(やくざ)だが義理人情にとても厚い親分=清水次郎長が、そのままシャンクスに投影されているのだ。この気質をルフィは受けつぐことになる。
ひとり、またひとりと心強い仲間を加えていき、旅先で困っている人たちを救っていく序盤のストーリーは『七人の侍』からのインスパイア。
『次郎長三国志』も旅を続ける次郎長の男っぷりに惚れた男たちが仲間に加わっていくパターンであり、この2作から多大な影響を受けていることがわかる。
物語の基本軸は「義理人情に熱い親分」と「個性豊かな仲間たち」の強固な信頼関係であり、海賊王、秘宝、悪魔の実といった要素はあくまでオプションにすぎないのだ。
てなわけで記念すべき年明け最初の「きょうのマンガ」はド定番の『ONE PIECE』。
かつて健さんや文太兄ィに憧れた先輩がたも、つまらない正月のテレビを消して『ONE PIECE』を手にとってみてはいかがだろうか?
おそらく1巻めを読み終えた瞬間に、書店へ走ることになりますよ!
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。