日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは、『長男・次男・三男・夫よ 早く大人になってくれ!!（震え声）』

『長男・次男・三男・夫よ 早く大人になってくれ!!（震え声）』
たちばなかおる 双葉社 ￥920+税
（2016年1月16日発売）

『ユンタのゆっくり成長記』など、ダウン症の長男を筆頭にした3兄弟を育てる著者・たちばなかおるによる4コマ、ときに8コマの子育てエッセイである。……が、子だけでなく「夫」も含まれているのもミソである。

成長はゆっくりでおしゃべりが苦手ながら、温和な長男・ユンタは「進級したらバナナを100本食べても吐かない」との決意を身ぶりも交えて一生懸命宣言してくれる。
ちょっぴりかっこつけな次男・ダイはコレクター魂が変な方向に進化し、鼻血のティッシュをとっておこうとする。
食欲旺盛で体格がっしりな三男・イッちゃんは未開封のカップうどんを後生大事にしまいこみ……。人の話を聞かない、予想外の言動をするなど、男子特有の不可解な行動に母のツッコミが冴える。

さらに、社会現象になった某メダルや特撮の変身グッズへの物欲にまみれているのは、子どもたちではなく夫である。
保護者会でお母さん同士が「バカ中のバカ」と呼ぶ大人そのものである夫の行動を思い返して、気まずさを隠せない。

ダウン症は健常なヒトよりも、染色体が1本多いことで発生する先天性の疾患だ。
しかし著者の目をとおして見る実質4人息子（3兄弟+夫）の行動は、染色体の数よりも、なんかほかの「男子」を発現させる遺伝子の作用のほうが、よほど強いのではないか、という気さえしてくる。

別作品では、障がいのある長男を育てるうえで心配、絶望や葛藤もたくさんあったことも率直に描かれており、ただ「楽しそう」だけでは終わらせられない。
それでも、正しくとも実践不可能な育児論や、志の高すぎる素敵なママ像よりも、よっぽど困難な状況におかれた母親たちを元気づけてくれる。

主婦向け雑誌の連載ではあるが、次男・ダイが強くて優しいよそのお兄さんに対し、まるで恋のような感情を抱く話などは、かつて男の子だった大人の男性にも共感できるんじゃないでしょうか。

＜文・和智永 妙＞
「このマンガがすごい！」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。